episode33 長く遅く遠かった春   藤裏葉

 ◇藤裏葉ふじのうらばざっくりあらすじ

 夕霧と雲居の雁の初恋がようやく実り、ふたりは結婚することができました。源氏の娘の明石の姫君は東宮に入内し、紫の上は明石の御方に姫君の世話を任せることにします。このときふたりは初めて対面しお互いの素晴らしさに感動し、その後は友情を深めます。源氏は冷泉帝から准太上天皇の位を授かりました。



【超訳】藤裏葉ふじのうらば

 源氏 39歳 紫の上 31歳

 明石の御方 30歳 明石の姫君 11歳

 夕霧 18歳 雲居の雁 20歳



 ―― 初恋の行方 ―― 

 明石の姫君の結婚の準備で慌ただしい時期なんだけど、夕霧は物思いにふけってるの。どうしてこんなにもあの恋にこだわるのか悩んでいるのね。雲居の雁のお父さん(内大臣)もこのふたりのことでは悩んでいるらしいって聞くんだけれど、夕霧としては内大臣から正式に婿として認めてもらえるのを待っているの。

 雲居の雁もカレの縁談のウワサに苦しんでいるの。それがもし本当なら私のことなんてもう思い出してもらえないわ、と悲しむの。このふたり、気持ち的に相手に背を向けているけれど、結局のところは相思相愛なのよね。

 夕霧の縁談の話には内大臣も動揺するの。もし夕霧が結婚してしまうようなことがあれば、娘の雲居の雁には別の相手を探さないといけないんだけど、夕霧との破局は世間体が悪いなぁと悩んでいるの。だったらここは自分から折れて夕霧と結婚させるしかないんだな、と考えるようになるの。

 そう決心した内大臣は母親の大宮さまの法事のときに夕霧に話しかけることにするの。けれども雨が降ってきてしまってきちんと話ができなかったの。夕霧にしてみても、いつもと違う内大臣の様子に「一体なにごと?」と気にしたみたい。


 4月に庭の藤の花が見事に咲き揃ったので、内大臣は自宅で宴を催すことにするの。夕霧にはわざわざ長男の柏木を使者にして正式に招待するの。


 ~ わが宿の 藤の色濃き 黄昏に たづねやはこぬ 春の名残を ~

(美しい藤の花(娘)を見に来ませんか?)


 こんな歌を受け取って夕霧はドキッとするの。からかってくる友人の柏木を先に帰して、自分はお父さんの源氏に相談に行くの。

「ただの花見のお誘いだと思うけれど、今仕事もヒマだし、父さん、どう思う?」

「花見以外の意味もあるんじゃないの?」

 源氏はせっかく向こうから折れてきてくれたんだから行っておいでと言ってくれるの。それから夕霧のためにとっておきの衣装を選んであげるのよ。


 少し遅れて内大臣家にやってきた夕霧は、招待客の中でもひときわ美しく優雅で気品があるの。内大臣は女房たちに自慢するの。宴は盛り上がってお酒もすすんでいるようね。

「あなたは秀才だから年寄りを大事にしないといけないことも知っているね?」

 内大臣はそんな風に夕霧に言うの。

「おじいさま(内大臣の亡き父、夕霧と雲居の雁の祖父)の代わりにお仕えしたいと思っていますが、僕が不出来で失礼があったことをお詫びします」

 夕霧が答えるの。


~ 春日さす 藤の裏葉の うちとけて 君し思はば われも頼まん ~ (後撰集)


「でもあなたが心を開いてくれるなら私もあなたを頼りにするよ」

 内大臣は藤の花房を盃に添えて夕霧に差し出したの。


~ 紫に かごとはかけん 藤の花 まつより過ぎて うれたけれども ~

(すべては藤の花のせいにしよう。待ちすぎてしまったけれどね)


 こうして雲居の雁との結婚を許してくれたの。

 

 ~ いく返り 露けき春を すぐしきて 花の紐とく 折に逢ふらん ~

(何度も何度も涙に濡れた春を過ごしたけれど、ようやく花にめぐり逢えます)


 夜遅くになり、夕霧は内大臣家に泊めてもらうことにするの。柏木がからかいながらも妹の雲居の雁の部屋に案内してあげるの。

 夢見るような心地で夕霧は雲居の雁の部屋を訪ねると、美しく成長していた雲居の雁と再会を果たすの。これでようやく夕霧と雲居の雁は結ばれるの。長い長い初恋を実らせたふたりだったの。遠かったふたり。長かった春。春の最後に花を咲かせる藤のように遅い遅い春がふたりに訪れたわね。


 朝になり自宅二条院に帰り、夕霧は雲居の雁に後朝の歌を贈るの。今までふたりの手紙のやりとりを隠れてこっそり受け渡ししていた従者が初めて堂々と使者として夕霧の文を雲居の雁に届けたの。

 お父さんの源氏にも雲居の雁との結婚を報告するの。

「頭のよい人でも、恋愛がらみでは見苦しいこともするのに、焦ったりもせず、穏便に想いつづけたのはエラかったね」

 と息子のことを褒めて祝ってあげたの。


 源氏は相変わらず若々しくて夕霧のお兄さんくらいにしか見えないの。艶っぽくて美しいんですって。

 夕霧も顔立ちは源氏とそっくりでステキな男性になっていたのよね。


 内大臣も婿として迎えた夕霧の素晴らしさがよくわかったみたい。どんな縁談も受け入れず独身をとおして娘を一途に想っていたことで、夕霧の誠実さは際立つわよね。

 今までは長女で冷泉帝の妃である新弘徽殿女御の方が華やかだったけれど、今は雲居の雁もとても幸せそうよね。雲居の雁の実のお母さんもこの結婚をとても喜んだの。


 ―― 葵祭 ――

 明石の姫君の入内(お嫁入り)の日程が決まったの。その姫君のために紫の上と上賀茂神社にお参りに出かけることになったの。

 その日はちょうど葵祭の日でお参りの帰りに見物をすることにするの。お祭りには源氏の家臣の惟光の娘の藤典侍とうのないしのすけも使者として参加しているのね。雲居の雁と引き離された後に夕霧が見初めた五節の舞姫で、手紙のやりとりをしていた相手なのね。正式な結婚は雲居の雁とした夕霧だったんだけど、藤典侍との恋人関係も続いていくみたいなんですって。


 紫の上は明石の姫君の入内に付き添ってあげたいけれど、これを機会に実の母の明石の御方にその役目を譲ってあげようと思い立つの。そのことを源氏に話すと源氏も素晴らしい決断だと紫の上を称えて、それから明石の御方にも話してあげるの。ただ実の母とは明かさず表立っては明石の姫君にお付きする女房という立場でなんだけど、明石の御方はとっても喜んだのよ。


 ―― 紫の上と明石の御方の対面 ――

 明石の姫君が入内の日を迎えて宮中に上がったの。紫の上も最初はついていって、あとから明石の御方もやってきたの。

 入内の式も華やかに行われたの。紫の上はとても美しく育った姫君を愛おしく眺めてたの。


 紫の上が宮中を退出する前に初めて明石の御方と会うことになったの。初対面だけれど今まで明石の姫君を通じて繋がっていたからこれからは仲良くしましょうと語り合うの。

 紫の上は明石の御方の話し方などから源氏が惹かれるのもわかるわ、と思ったんですって。

 明石の御方も紫の上は気高い貴婦人だったので、源氏から一番愛されているのがよくわかったみたい。


 綺麗に成長した実の娘に会えて明石の御方はうれし涙を流したのよね。

 完璧に教養も身に着けていて、父親は絶大な勢力のある源氏で、容姿も美しい明石の姫君(これからは明石女御)は東宮さまからもとっても愛されるの。

 明石の御方も出しゃばらず桐壺(明石女御の部屋)を取り仕切ったんですって。紫の上もときどき出かけてきては明石の御方との友情を深めていったみたいよ。


 ―― 源氏、准太上天皇に ――

 源氏も娘の明石の姫君がお嫁入りし、独身だった夕霧も雲居の雁と結婚して幸せになり安心したので、そろそろ出家をしてもいいのかな、と思い始めるの。

 紫の上が心配だけれど、養女の秋好中宮がついているから大丈夫だろうと思うのね。

 花散里には夕霧がついているからこちらも安心だと思うのね。

 

 来年源氏は40になるのでそのお祝いの用意をいろいろなところでしているのね。

 冷泉帝は源氏に「准太上天皇じゅんだじょうてんのう」という天皇に次ぐ位を授けるのね。でも実は冷泉帝としては譲位(帝の位を源氏に渡す)したいんだけれど、それができない妥協の策だったのね。


 内大臣が太政大臣に、夕霧は宰相中将から中納言に出世するの。夕霧は整った顔立ちにいっそう輝きが増したようで大臣も素晴らしい婿だと惚れ惚れしているみたい。

 前に雲居の雁の乳母が夕霧の身分が低いことをバカにしたことも今では笑い話よね。


 ―― 夕霧と雲居の雁の新居 ――

 夕霧が出世して来客も増えるからということで、ふたりが一緒に育った三条邸に引っ越したの。おばあさまの大宮さまが亡くなってから少しお屋敷が荒れていたんだけれど、ふたりが住んでいたころのように手直しをしたの。

 美しい夕方の庭を眺めながら、引き離されたツラかった日のことなんかをふたりで語り合うの。

 大宮さまにお仕えしていた女房たちもこのふたりがここに住むことになったことをとても喜んでくれたわ。

 そこへ雲居の雁のお父さんの大臣もやってきてふたりを祝福してくれたのよ。


 ―― 朱雀院、冷泉帝、六条院へ ――

 秋に源氏のお屋敷の六条院に冷泉帝をご招待したの。冷泉帝が朱雀院(元朱雀帝、源氏のお兄さん)もお誘いしたので、天下人がみな六条院に集まることになったのよね。

 秋の庭の紅葉が美しく素晴らしいのよね。

 供される饗膳きょうぜんも珍しいお料理ばかりだったみたいよ。

 宴会では舞が披露されたんだけど、みんな昔の「青海波」を思い出すのよね。


 朱雀院も冷泉帝も和歌を詠んで宴を楽しまれるの。冷泉帝のお顔は美しくて源氏とそっくりなの。おまけに夕霧ともよく似ているから3人がそっくりで美しいなぁと朱雀院はしみじみ思ったんですって。



 ◇幼馴染同士の淡い初恋がようやく実りました。父親の内大臣に引き離されてから6年が経っていました。この時代にありがちな女子の部屋に忍び込んで既成事実を作ってしまうというようなことをせず、きちんと出世して内大臣の信用と許しを得てから結婚した誠実な夕霧でした。

 お父さんとは……、見た目はそっくりですが、恋模様は正反対でしたね。




 ~ わが宿の 藤の色濃き 黄昏に たづねやはこぬ 春の名残を ~

 内大臣が夕霧を自宅に誘った歌


 ~ いく返り 露けき春を すぐしきて 花の紐とく 折に逢ふらん ~

 夕霧が結婚を許されて詠んだ歌




 第三十三帖 藤裏葉



 ☆☆☆

【別冊】源氏物語のご案内

 関連するトピックスがあります。よかったらご覧になってくださいね。


topics23 ようやく咲いた花、待ちわびた春

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881765812/episodes/1177354054885414333




※諸説ありますが、源氏物語全五十四帖を三部構成に区分することができるようです。その構成に従うと、この第三十三帖藤裏葉までが第一部でした。


 次回第三十四帖から第二部に入ります。「若菜」は物語の中でも最高傑作とも言われています。大きなポイントとなる巻だと思います。かなりボリュームもあるので少しずつ公開しますね。


 ここまで閲覧いただき、心より感謝申し上げます。

 引き続きお立ち寄りいただけますよう、よろしくお願い申し上げます。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る