episode49 薫の想いと運命の女性 宿木
◇
皇族である匂宮と高貴な貴族である薫には政治的な縁談がそれぞれ持ち掛けられます。ふたりとも気は進みませんが縁談を受け入れ、結婚することになります。
あるとき薫は中の君から亡くなった大君にそっくりな姫君がいるとの話を聞きます。
【超訳】
薫 24〜26歳 匂宮 25〜27歳
中の君 24〜26歳 浮舟 19〜21歳
夕霧 50〜52歳
―― 薫の縁談、匂宮の婚礼 ――
今の帝には明石の中宮さまのほかに藤壺の女御という人(冷泉院のお母さんとは別人)がいて内親王がひとりいたんだけど、その姫君が裳着を迎えるまえに女御さまが亡くなってしまうのね。
お母さんを亡くして後ろ盾のない内親王の将来を帝は心配するの。その昔、帝のお父さんの朱雀院が娘の女三宮の将来を心配して源氏と結婚させて薫という素晴らしい息子に恵まれて今もその薫に支えてもらいながら女三宮は不自由なく暮らしているから、自分の娘も結婚させるのがいいなって思うのね。そこで薫なら夫として理想的だと思ってなんとなく本人にほのめかすの。
薫は恐れ多いんだけれど、帝からのお話だから断ることなんてできないの。けれども心の中ではまだ大君を想っているのよね。
このウワサを聞いた夕霧はやっぱり娘の六の君を薫と結婚させることはできないから匂宮しかいないと決心して明石の中宮(夕霧にとっては異母妹)に根回しを繰り返すの。そしてとうとう匂宮もこの縁談を受け入れることにするの。
―― 中の君の戸惑い ――
年が改まって、薫の婚約も匂宮の婚礼の準備もふたりの意思とは関係なく進められるの。匂宮はこの婚礼のことで中の君を悲しませたくなくて伝えていないんだけど、噂は中の君にも届いて落ち込んじゃうのよね。やっぱり宇治の山荘でひとりで生きていきたかったわって悔やむの。でもそんなときに中の君が妊娠するんだけど、それを匂宮に伝えようとはせず、匂宮も彼女の変化に気づかないの。六の君との結婚の日取りも決まるんだけど、匂宮は自分で中の君に知らせることができないの。でも世間中で知れ渡っているから中の君は外部からその日程を知ることになるんだけれど、どうして夫の匂宮が話してくれないの? って悲しく想っちゃうのよ。
中の君と結婚してからの匂宮は仕事と特別な用事以外はいつでも中の君のいる二条院にいてどこにも外泊なんてしていなかったの。けれどこれから六の君と結婚することになったら外泊(六の君は六条院に住んでる)することになるから少しずつ慣れてもらおうと匂宮は思ってわざと宮中で夜勤をしたりするんだけど、中の君にとってはそれだって寂しいことだったわよね。
薫も中の君のことを気の毒に思っているの。中の君と匂宮をくっつけたのは自分が大君と結ばれたかったからなので、考えの浅いことをしてしまったと悔やむの。匂宮は浮気なタイプだし、六の君の実家は権力者の夕霧だからこれまでのように中の君べったりではいられないだろうし、大君の言ったとおり、自分が中の君と結婚していればよかったってね。
―― 薫と中の君と朝顔の花 ――
ある朝、薫は二条院の中の君のところを訪ねようとするの。匂宮は夜勤で家にいないらしいから懐妊で体調のよくない中の君のお見舞いに行くみたい。
御簾越しに中の君と話しているとまるでその声が大君のように薫には聞こえてくるの。御簾なんて巻き上げちゃって顔を見て話したいって薫は思うんだけど、中の君の体調がよくないからそれは我慢するのね。かわりに出かけるときに摘んできた朝顔の花を御簾の中に差し入れるの。
~ よそへてぞ 見るべかりける 白露の 契りかおきし 朝顔の花 ~
(お姉さんの代わりにキミと結婚すればよかったよ。お姉さんもそう言ってくれていたのに)
朝顔には摘んだ時の露がまだついたままなの。
~ 消えぬまに 枯れぬる花の はかなさに おくるる露は なほぞまされる ~
(美しいまま亡くなってしまったお姉さんよりも残されたわたしはもっと儚いの)
そんな歌を贈りながらも薫はやっぱり大君のことを思い出して悲しむの。中の君もお姉さんも宇治も恋しいわと薫に話すの。
―― 匂宮と六の君の結婚 ――
匂宮の婚礼の日になったんだけれど、今日が六の君との結婚の日だって中の君に打ち明けられないの。匂宮はこの結婚に気が進まなくて、
中の君のことはもちろん大切に想っているんだけれど、六の君には匂宮を惹きつける魅力があるんですって。
中の君はやっぱり悲しくて匂宮が出かけたあと、ひとりで寝るときに涙で枕を濡らしてしまうの。
翌朝二条院に帰ってきた匂宮は中の君のご機嫌をとろうとするんだけれど、匂宮が新婦の六の君に興味を持ったらしいことを中の君は察してしまってまた落ち込むのよね。
高貴な身分の人には複数の奥さんがいるのは珍しくないし、小説でもひとりの夫に奥さんがふたりという状況でどうしてそんなに女子は苦しい想いをするのかしらって共感できないでいた中の君だったんだけれど、自分がその立場になると本当に心が痛くて苦しいことなんだわって痛感したみたい。
一方、
―― 優柔不断な薫 ――
六の君と結婚した匂宮は昼間も六条院にいるようになるの。もともと六条院はお母さんの明石中宮さまの実家でもあり、自分の部屋もあるからなかなか中の君のいる二条院に帰りにくいみたいなの。六の君は色白で容姿も美しい貴婦人で欠点がみつからないんですって。ただ可愛らしさや物柔らかで魅力的なのは中の君だなぁとも思っているの。
中の君はこんなことになるんだったら宇治から出てくるんじゃなかったわって思うの。今からでも宇治に行ってあちらで休みたいわなんて考えるようになるの。妊娠中で体調がよくない中の君はお父さんの供養のことで会いたいって薫に手紙を書くの。
すぐに薫はやってきてくれるの。前に宇治の山荘で薫と中の君は寝室で一緒に過ごした夜があったけれど(大君が中の君と薫を結婚させようと思って寝室から逃げちゃった夜ね)、薫は匂宮と違って紳士なので(あの夜も話をしただけでカラダの関係は結ばなかった)、いつもは御簾越しの対面なんだけど、今日は御簾の中に席を設けて几帳越しに話をするの。
匂宮の結婚のことを中の君は愚痴ったりはしないけれど、宇治に行きたいとつぶやく中の君に薫は自分を抑えられなくなって中の君の袖をつかんで口説き始めるの。もちろん中の君は抵抗するんだけど、薫は前に会ったときよりも美しくなっている中の君を見てやっぱり匂宮とじゃなくて自分が結婚すればよかったってまた後悔するの。けれども中の君の妊娠しているときにする帯を見た薫は我に返ってそれ以上はなにもしないで帰って行くの。そうはいっても中の君への恋心はどうしようもないみたい。なんとかしてこの恋を成就させたいって思っているんですって。
匂宮が久しぶりに二条院に戻ってくるんだけれど、薫の残り香が香っているから中の君と何かあったんじゃないかって疑うの。
~ またびとに なれける袖の 移り香を わが身にしめて 恨みつるかな ~
(アイツの香りがキミからしてくるなんて超ムカつくんだけど)
~ 見なれぬる 中の衣と 頼みしを かばかりにてや かけ離れなん ~
(わたしたち夫婦の仲ってこんな香りだけで終わっちゃうの?)
中の君は匂宮が思っているようなこと(薫と浮気)はないわって泣くの。そうなると匂宮も愛しい中の君のことをきつくは問い詰められないの。でも薫は油断できないって感じた匂宮はしばらく中の君のそばを離れようとしないの。
薫も勢いとはいえ友人の奥さんを口説いてしまったことを後悔するんだけれど、匂宮が中の君を大事にしていることを知ると安心もするの。
中の君もお姉さんの大君さえ生きていてくれたら薫の心も迷うことはなかったのにって思うの。匂宮の六の君との結婚もショックだったけれど、薫が自分に想いを寄せていることも中の君にとっては悩ましいことなのよね。
それでも薫は気持ちを抑えられなくてまた中の君を訪ねるの。また口説きはじめようとする薫に中の君はそういえば、なんてある姫君の話を始めるの。
その姫君はお父さんの八の宮に縁のある人で不思議なほど大君に似ていたなんて言うの。薫は中の君が自分から気をそらせようとしてそんな話を始めたことを恨めしく思うんだけど、「大君に似た」姫君のことが気になりだすの。
―― 大君によく似た姫君 ――
9月になって薫は大君の一周忌の準備のために宇治に出かけるの。かつての八の宮の山荘を取り壊して山寺の近くに御堂を建てようと阿闍梨と相談するの。その夜は山荘に泊まることにして、残っている弁の君と話をするの。薫の実のお父さんの柏木のことや亡くなった大君、二条院に住んでいる中の君のこととかね。それから薫は中の君が話していた姫君のことを聞いてみることにするの。
どうやら八の宮は大君たちのお母さんが亡くなったあとに中将の君という女房と恋仲になって姫君が産まれたみたいなの。
でも出家願望が強かった八の宮は中将の君と姫君を遠ざけてしまい、彼女は地方官僚と結婚して任国に行っていたんだけれど、二十年ぶりに都に戻ってきて二条院の中の君に挨拶に来たんですって。その話を聞くと薫はどうにも気持ちがはやってしまうの。大君の異母妹にあたる姫君を見てみたいって思うのよ。弁の君はいずれ中将の君と姫君が八の宮のお墓参りに宇治にくるだろうからそのときに薫が会いたいと言っていることを伝えますと約束するの。
宇治から戻った薫は宇治で採った色づいた蔦の葉を二条院の中の君に届けるの。添えた手紙には恋愛めいたことは書かないで、山荘を御堂に建て替えることなどの用件だけにしたの。
案の定匂宮は薫からの手紙と蔦の贈り物を(やっぱり浮気してるんじゃないの?)とまた疑うんだけれど、手紙の内容は山荘のことしか書いていないし、浮気の証拠は見当たらないの。中の君は何度も匂宮から疑われてうっとおしく思っているみたいね。
そうなると匂宮も中の君のご機嫌をとろうと琵琶の演奏を聴かせてあげたりするの。(匂宮の
「(六の君さまとも結婚したけれど)結局は中の君さまのことを匂宮さまなりに大事になさってるのよね」
「奥さまはふたりになったけれど、中の君さまはお幸せよね」
匂宮と中の君のふたりを見守りながら女房たちはそんな風に話しているの。
―― 中の君の出産、薫の結婚 ――
年が明けて中の君は臨月を迎えるの。匂宮にとっても初めて子供を迎えるから中の君のことをとても心配しているの。匂宮のお母さんの明石中宮からもお見舞いの使いが来るの。同じ時期に薫の婚約者の内親王も裳着を迎えようとしていて、それは薫との結婚が近づいているってことなんだけど、当の薫は中の君のお産の心配ばかりしているのよね。
2月に薫は権大納言に昇進して右大将も兼任することになって、「
そして内親王の裳着も行われて薫と結婚するの。帝の娘である内親王との結婚なんてあの源氏だって晩年だったし、自分は世間から認められない形での落ち葉の宮との結婚だったのに、薫は若くして正式に内親王と結婚できるなんて強運の持ち主だ、なんて夕霧は思っていたみたいよ。
4月になって薫は内親王を自宅の三条の宮に迎え入れるの。その前日には宮中で帝が宴を催して内親王を送り出だすの。彼女は落ち着いていて欠点のない女性なんだけど、薫の心はまだ大君にあるのよね。
―― 運命の女性? との出会い ――
その月の20日過ぎに宇治の御堂工事を薫が見に行くと、山荘に見慣れない女車があるの。弁の君に聞くとこの前話していた中将の君と娘が来ているって言うの。
薫がそっと覗いてみると田舎っぽい付き人たちの中にひとりとても品のよい女性がいるの。その姿は大君そのものに見えて薫は思わず涙を流すの。弁の君と話している声は中の君によく似ているの。薫はいますぐにでも姫のいる部屋に入って行って「あなたはやっぱり生きていたんだね」と話しかけたいくらいなの。その夜薫は弁の君に姫君と付き合えるように協力してほしいと頼んだの。
~ かほ鳥の 声も聞きしに かよふやと しげみを分けて 今日ぞ尋ぬる ~
(顔も声もなつかしいあの人にそっくりだろうかと茂みをかきわけて今日逢いに来たんだよ)
「生まれる前からの宿命だったんだよ。やっとめぐりあえた」
薫がそう言うので
「まあ、いつの間にそんな宿命ができたのでしょうね」
と弁の君は笑ったみたいね。
◇帝からの要請を断ることができずに内親王と結婚した薫ですが、気持ちはまだ大君に向いていました。そして大君の妹の中の君にも好意を寄せてしまいます。そんな薫に大君によく似た姫君、しかも八の宮ゆかりの姫君の話を聞き、宇治で彼女を見染めました。薫は彼女こそ運命の人だと思ったようですね。
~ かほ鳥の 声も聞きしに かよふやと しげみを分けて 今日ぞ尋ぬる ~
薫が大君にそっくりの姫君を見つけて詠んだ歌
第四十九帖 宿木
☆☆☆
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