episode35-3 吹き荒れる嵐の六条院 若菜下

◇若菜下(3)ざっくりあらすじ

倒れた紫の上に源氏がつきっきりの合間に柏木は女三宮と密通してしまいます。そして女三宮は懐妊してしまい、不貞の事実を源氏は知ってしまいます。柏木は罪の意識から病気になってしまいます。


【超訳】若菜下(三)

源氏 47歳 紫の上 39歳

女三宮 21歳

明石の御方 38歳 明石女御 19歳

夕霧 26歳 柏木 30歳



―― 柏木の暴走 ――

 柏木は女三宮と結婚できなかったかわりに朱雀院の娘の女二宮と結婚するの。女二宮は女三宮とは違うお母さんで身分の高くない更衣(女御の下の位)だったのね。けれどもやっぱり女三宮を忘れられなくていまだに小侍従に仲を取り持って欲しいって頼んでいるみたいなの。


「知ってる? 今頃になって朱雀院さまは女三宮さまが幸せじゃないらしいから僕と結婚した女二宮さまの方がよかったって言ってるんだよ」

 なんて愚痴を柏木は小侍従にこぼすの。

「今はまあまあのご身分ですけれど、あの頃はとても女三宮さまにつりあわなかったでしょうに」

 小侍従は冷静に受け答えるの。

「もう昔のことはいいよ。それより今六条院は(紫の上さまたちが二条院に移っていて)人が少ないだろ? このチャンスに僕の気持ちだけでも女三宮さまに伝えさせてくれない?」

 柏木はそんなことまで言ってきたの。


 小侍従は冗談じゃないと最初は断ったんだけど、あんまりにも柏木がしつこくて、小侍従も少し考えなしだったから、人の少ない日に女三宮と会わせてあげることにしちゃうのよ。


 絶対に失礼なことをしないで告白をするだけって約束を小侍従としたのに、いざ女三宮と対面すると柏木は舞い上がっちゃうの。女三宮は最初は源氏が来たのかと思うんだけど、その男が時々手紙ラブレターを送ってくる柏木だってわかって怖くなってしまうの。ずっと好きだったとか今でも諦められないとかくどくどと柏木は女三宮に自分の気持ちを伝えるの。女三宮は身分が高いから気位が高いだろうって想像してたんだけど、あまりに可憐で美しかったから柏木は欲望を抑えられなくなっちゃってそのまま一線を越えてしまうのよ。


 猫を女三宮に手渡す夢を見た柏木は、目を覚ますとあのときの猫のおかげで姿を見ることができたと女三宮に話すの。女三宮は姿を見られてしまうという自分の失態ミスのせいでこんなことになったと落ち込むの。これからどうやって源氏に会ったらいいの? って恐ろしくなって泣いてしまうの。


 柏木が女三宮を抱きあげて寝室から出てきて、夜が明けてくるのを眺めるの。


~ おきて行く 空も知られぬ 明けぐれに いづくの露の かかる袖なり ~ 

(目覚めて帰る先もわからない明け暮れだけれど、どうしてだか泣けるんだ)


~ あけぐれの 空にうき身は 消えななん 夢なりけりと 見てもやむべく ~

(明け暮れの空に消えてしまいたいわ。夢だったと思いたいから)


 女三宮の声の美しさに気持ちだけは身体から離れてここに残ってしまいそうだなんて柏木は思いながら帰っていくの。


 家に帰ってから柏木はエライことをしてしまったと部屋に引きこもるの。源氏にバレたらどんな目に遭うのか想像するだけで恐ろしくなってしまうのよね。


 女三宮の様子がヘンだと聞いた源氏は、女三宮のいる六条院にも行くの。自分が紫の上にかかりきりだから女三宮の機嫌が悪いんだろうって思うのよね。それでもやっぱり紫の上の看病の方が優先だからすぐに二条院に帰っちゃうのね。


 一方の柏木はあの夜以来ますます女三宮のことを想っているの。おまけに同じ姉妹でもなんで落ち葉みたいに劣っているひとと結婚したんだろうってヒドイ歌を詠むの。(この歌が所以で女二宮は落ち葉の宮と呼ばれるの)妻の女二宮のことをほったらかしだったから、女二宮も愛されなくてツライ思いをしているのよね。


―― 紫の上の病の原因 ――

 源氏が女三宮のところにいるときに、紫の上が亡くなったって突然二条院から使いが来るの。源氏はもちろん紫の上のもとへ急行するの。周りの女房たちが泣きわめいているんだけど、源氏は紫の上の死を信じないでお坊さんたちに加持祈祷をさせると、物の怪がそこにいた女の子に憑りついて、紫の上は息を吹き返すの。

 物の怪の正体は六条御息所だったの。まだ成仏できないで彷徨っていたら、このまえの琴の演奏会(女楽おんながく)の夜に源氏に悪口を言われたこと(才色兼備だけれど息苦しい)に腹を立てて紫の上に憑りついていたんですって。


 紫の上が命をとりとめたからみんな大喜びなんだけど、一番安心して泣いて喜んでいたのは夕霧だったのよね。

 死なないでくれた紫の上がどうしてもってお願いするので、源氏は紫の上に五戒(在家信者が守る戒律)だけ受けさせてあげるの。(正式な出家は認めない)

 源氏はなりふり構わない看病で疲れているんだけど、また紫の上が物の怪に憑りつかれないように毎日法華経を供養して六条御息所を成仏させようとするの。


 夏になっても紫の上の病は回復しなくて、あまりに源氏が嘆いているから、

「わたしはもういつ死んでもいいのだけれど、あなたのためにもう少し生きてみるわ」

 そんな風に紫の上は思うようになるの。


~ 消え留まる ほどやはべき たまさかに はちすの露の かかるばかりを ~

(蓮の露が消えないあいだは生きていられるかしら)

 庭の蓮を眺めながら紫の上がそんな歌を詠むの。


~ 契りおかん この世ならでも 蓮の葉に 玉ゐる露の 心隔つな ~

(約束するよ。この世だけじゃなくて生まれ変わっても同じ蓮の上に俺たちは生まれ変わるって。一ミリの心の隔てもないからね)

 今だけじゃなくて生まれ変わっても一緒にいようって源氏は約束するの。



―― 女三宮の妊娠 ――

 一方で柏木はいけないこととはわかりつつも女三宮のところを訪ねては逢瀬を重ねているの。そうしているうちに女三宮が懐妊してしまうの。結婚して7~8年経っていて今頃? って源氏は不思議なんだけど、具合の悪そうな女三宮の看病もしてあげるのね。

 そうして源氏が女三宮の傍にいると、当然柏木は女三宮に逢えないので嫉妬に狂った手紙を女三宮に送るの。その手紙を女三宮がきちんと隠しておかなかったから源氏に読まれちゃうのよ。


 これで女三宮の懐妊の真相を知ってしまった源氏なんだけど、もちろんふたりを許すことなんてできないの。でも考えてみれば自分も女院との許されない恋をしているでしょう? ひょっとしたらお父さんの桐壺院は真実を知っていて知らないフリをしていたんじゃ? って考えたりして、昔犯した罪に対するこれが罰なのかって震えるのよね。


 女三宮は源氏に知られてしまったことでお父さんの朱雀院にまで伝わったらどうしたらいいの? と心を乱すの。

 相変わらず柏木は女三宮に逢いたいって小侍従に言ってくるからこの前の手紙で源氏にバレたって知らせるの。もちろん柏木は凍り付いたわね。動揺した柏木は体調を崩してしまって宮中職場にも行かないの。これで自分の一生はダメになるかもしれない、なんてことをしてしまったんだって自分を恨むの。


 源氏は直接言葉では女三宮のことを責めないで、表向きは夫婦の体裁をつくろっているけれど、もちろん今までどおりには女三宮に接することができないの。女三宮が頼りないからこんなことになったんだって思っているの。

 同じような事態(男の人が寝室に侵入してきたこと)でも自分にやましいことがないことを証明して今では立派な右大臣夫人になっている玉鬘と比べているみたい。


―― 朧月夜の出家 ――

 いまだに源氏は朧月夜に惹かれていたけれど、今回の件で朧月夜の惚れっぽくって流されやすい性格も少しイヤに思えてきてたのね。

 そんな朧月夜が出家をしたの。さすがに源氏は動揺して手紙を送るの。


~ あまの世を よそに聞かめや 須磨の浦に 藻塩垂れしも たれならなくに ~

(出家したなんて聞いてスルーもできないじゃん。俺はキミの為に須磨をさすらったんだよ?)


 早くから出家しようと朧月夜は考えていたのを源氏が引き留めていたのよね。だから誰にも知らせないで尼になったみたいなの。


~ あま船に いかがは思ひ おくれけん 明石の浦に いさりせし君 ~

(どうしてアタシより出家が遅れちゃったのかしらね? アタシの為に明石にまで行ってくれたあなたなのにね)


 これが恋人として出した朧月夜の最後の和歌だったのよね。


 源氏は紫の上にもこのことを伝えるの。今では親しくつきあえる女友達は朧月夜と朝顔の君だけだったのに尼になっちゃったよと残念がるの。

 思慮深くて優しい女性ヒトだったのに、こうなると女の子を育てるのは難しいもんだねと話し始めるの。結婚までの教育を十分にしてあげないといけないね、内親王さま(明石女御の娘)をしっかり育ててあげてね、と源氏は紫の上に伝えるの。紫の上もできるかぎり心をこめるわと返事をするの。それから自分は許してもらえない出家を叶えた彼女たちのことをうらやましく思うの。



―― 朱雀院のお祝い ――

 朱雀院のお祝いパーティー(御賀)は源氏一族のゴタゴタ続き(紫の上の病気、女三宮の妊娠)で延び延びになってたから、柏木と女二宮が先に朱雀院にお祝いに行くの。朱雀院も女三宮の方は妊娠しているのに夫婦仲があんまりよくないウワサを心配しているの。

 源氏は相変わらず女三宮に冷たい態度でついついイヤミを言ってしまうんだけど、朱雀院のお祝いをようやく12月に行うことにするの。そんな華やかなパーティーの準備に芸事の才能がある柏木がいないのは彼が体調を崩しているからだって世間は考えるんだけど、夕霧だけはもしや過ちを犯したんじゃないかって見当をつけるの。それでもまさかそのことが源氏にバレていることまでは想像しなかったんだけれどね。


 六条院での御賀の準備が忙しくなってくるの。すると二条院で療養していた紫の上も音楽が聴きたくて戻ってくるの。明石の女御もまたお産で帰省してきているの。リハーサルの日には玉鬘もやってきたの。花散里は夕霧が夏の御殿でずっと合奏の練習をしていたからリハーサルには来なかったみたいね。

 源氏はこのリハーサルに柏木に来て欲しいし、いないと周りがヘンに思うだろうから仕方なく柏木を招くんだけど、柏木は体調不良を理由に断ってくるの。


 けれども柏木のお父さん(元頭中将)が強く勧めるので我慢してやってくるの。すっかり痩せてしまって顔色が悪い柏木に源氏は表面上は素知らぬフリをして子供達の舞のアドバイスをしてほしいなんて話しかけるんだけど、柏木は動揺してしまうの。それでも控えめながらも行き届いた柏木の態度に源氏は感心したのよね。柏木も気を取り直して合奏や舞のアドバイスをしてあげたの。


 玉鬘や夕霧の息子たちの舞はとっても可愛らしいの。他にも多くの孫たちが合奏を披露して見ている人も感動したの。

 それから源氏は酔いに任せて柏木にちらっと嫌みを言うの。すると冷たい眼光に射貫かれた柏木はうろたえてしまってパーティーの途中で帰ってしまうの。そしてその後は寝たきりになってしまっちゃうの。

 普段は女二宮のところに柏木は住んでいたんだけど、実家で療養することにするの。女二宮や母親がここにいてほしいってお願いしたんだけど、父親の屋敷に移って行ったの。


 大臣家でも柏木の病気はよくならないの。皆が心配して、朱雀院からもお見舞いの御使いがくるのよね。源氏もお見舞いの手紙を大臣に出すの。柏木の友人の夕霧は直接訪ねてきたわ。

 そんな中、朱雀院の御賀本番を行ったの。皆が柏木を心配しているのに少し気はひけたんだけど、日程が延び延びになっていたので決行したの。一体女三宮は柏木が重病というこの状況をどう思っているんだろうなって源氏は考えるの。

 


◇柏木の恋狂いに女三宮の懐妊、朧月夜の出家、そして源氏が知る女三宮の不貞の事実。ふたりを許すことなど到底できない源氏ですが自分も犯した「禁断の恋」を思い出します。

 朱雀院の出家から始まった【若菜】上下は怒涛の展開でしたね。今後も源氏と源氏をとりまく人たちの人生が綴られていきます。 



~ おきて行く 空も知られぬ 明けぐれに いづくの露の かかる袖なり ~ 

柏木が女三宮に贈った後朝の歌


~ あけぐれの 空にうき身は 消えななん 夢なりけりと 見てもやむべく ~

女三宮の返歌



第三十五帖 若菜下(三)



※源氏物語第三十五帖【若菜下】を3つに分けて【超訳】している3番目のエピソードです。三十四帖【若菜上】に引き続き第三十五帖【若菜下】もボリュームがあり、今後のカギとなるエピソードが多数登場するのでこのような形式にしています。



☆☆☆

【別冊】源氏物語のご案内

関連するトピックスがあります。よかったらご覧になってくださいね。


topics28 略奪のリフレイン

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881765812/episodes/1177354054882162601

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る