topics28 略奪のリフレイン
第35帖 若菜下(【超訳】源氏物語episode35-3 吹き荒れる嵐の六条院)に寄せて
以前のトピックスで源氏物語には同じような出来事のリフレインがよく見られると書きました。(topics2 物語は繰り返す?)
前回は好きな人(亡くなった人)の代わりの人と一緒になること(身代わり婚)を書きました。
今回は略奪、です。
源氏は父親の妃の藤壺の宮に恋い焦がれ想いを遂げました。藤壺の宮は妊娠し、罪の子冷泉帝を産みました。
源氏の息子の夕霧は父の妻の紫の上を垣間見てしまい、あまりの美しさに淡い恋心を抱きます。ただ夕霧は想うだけで行動には移しませんでした。
そして柏木です。源氏の妻の女三宮に恋をして思い詰め、とうとう密通してしまいました。女三宮も懐妊してしまいます。
源氏は父親の妻と密通して、今度は自分の妻に密通されてしまいます。
藤壺の宮との恋は表面的には父の桐壺帝には知られず、産まれた冷泉帝を桐壺帝は我が子として可愛がりました。
源氏は柏木と女三宮のことを知り、怒り、イヤミを言い、ふたりを責めます。
「ひょっとしたら父さんも俺たちのこと知ってたんじゃ……」
源氏は桐壺帝が自分たちのことを知っていて知らないフリをして冷泉帝に接していたんじゃないかと考え恐ろしくなります。自分は同じことをされてその事実を知り、知らないフリはできませんでした。
「今思えば俺の恋も恐ろしい罪だったんだな……」
自分が父帝に対して犯した罪を今度は柏木にされて、今さらあのときの罪の重さに震えます。それから恋愛沙汰についてはエラそうに人を非難する資格は俺にはないんだって思いもするみたいです。
桐壺帝が源氏と藤壺の宮のことを知っていたかどうかは物語に書かれていません。
ここからはワタシの勝手な妄想ですが、知っていたんじゃないかなぁと思うのです。桐壺帝には源氏の母の桐壺に似ているという理由で藤壺の宮を妃にしている負い目があって、ふたりのことを認めてあげてたんじゃないかなぁって。だから藤壺の宮が源氏に恋していて、源氏も藤壺の宮を愛しているんなら、見て見ぬフリをしようって思ったんじゃないかなぁと。現代のように「俺のオンナ」的な所有物感覚が平安時代にはないと言います。それに源氏は愛する桐壺の更衣が産んだ子。源氏の子ということは桐壺の更衣の血を継ぐ子になる。うすうす察していながら、そしてすべてを認め、許した上で冷泉帝のことも愛したんじゃないかなぁって。
それに対して源氏は女三宮と柏木のことを許しません。女三宮にも「知ってるからね、俺は」と伝えますし、柏木にもイヤミを言い立場的にも圧力をかけ病気にまでしてしまいます。
「誰かに読まれるかもしれない手紙に
「俺はそこらへんきっちりしてたぜ」
「宮中の女御や更衣と一貴族との密通はワケが違うんだ(女御・更衣との不適切な関係は史実にもあるから)」
藤壺の宮さまとの禁じられた関係を妙に正当化しております。
「(俺のオンナを寝取るなんて)絶対許さねぇ」
息子ほど年の離れた若者と娘より年下のヨメとの密通事件。はらわたが煮えくり返っています。
自分だって「命をかけた恋」をして、罪を犯してでも遂げたかった想いや、犯してしまった罪におののく気持ちだってわかったでしょうにね。
カタチだけの夫婦を装っている正室の女三宮を源氏は特に愛してもいないけれど、だからといって他所の男との密通は許せない。誰にも知られてはいないけれど、「光源氏」たるプライドが許さないのかもしれません。
桐壺帝の妻の藤壺の宮と源氏の恋
源氏の妻の女三宮と柏木の恋
下世話な表現をすると「妻を寝取られる」という同じ事象のリフレインですが、桐壺帝と源氏ではその後の態度は対照的でした。
同じ展開に違うリアクション。
この物語の凄さです。
☆【超訳】源氏物語のご案内
関連するエピソードはこちら。よかったらご覧になってくださいね。
episode35-3 吹き荒れる嵐の六条院 若菜下
https://kakuyomu.jp/works/1177354054881684388/episodes/1177354054885620658
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