topics27 最愛の妻の望み
第35帖 若菜下(【超訳】源氏物語episode35-2 春の演奏会とある願い)に寄せて
いよいよ始まる女性コンサート『
姿は見ることはできなくても、すぐそこにいらっしゃる憧れの紫の上の奏でる和琴に胸ときめかせる夕霧。
懐かしく、それでいて斬新で、とても魅力的。柔らかいタッチに美しい旋律、ステキだ、綺麗だ、素晴らしすぎるって夕霧は聴き惚れますね。
夕霧の絶賛ぶりに源氏も気をよくしたみたいで
「俺が教えたからね」
とご満悦。源氏自身も紫の上の演奏には感心して
「やっぱり、紫ちゃんはカンペキ」
と惚れ惚れ。
花に喩えようにも桜でも物足りないほどの美しさ。
優しく、賢く、芸事にも秀でている。
そんなカンペキ女子の紫の上が女楽が終わったあとに源氏にお願いしたことはなんと、
「出家」
でした。同じ春の御殿には正室の女三宮もいらっしゃるし、わたしはお邪魔でしょう? もう年なので
源氏くん。衝撃です。青天の霹靂です。自分は出家したいな、しようかな、でもみんなのことも気にかかるしな、どうしよっかなと出家せずにいましたが、まさかの紫ちゃんからの出家願望。
「うっそ……」
「マジ?」
「え? よくわかんない。どういうこと?」
「それって俺を捨てるの?」
源氏くん、大混乱です。
さあ大変。愛しの紫ちゃんが離れていこうとしています。
「ダメ。ダメ。そんなん絶対ダメだからね」
「やだ。やだ。キミと離れてなんか生きていけないよ」
「ダメだからね」
「こんなにキミのこと愛してるのに見捨てるの?」
その昔、六条御息所が別れを決意したときもそうでした。
自分の元から離れていこうとされるとがぜん焦る。
相手が自分を好きでなくなるとか気持ちが離れるとか考えないのでしょうか?
今までの自分の言動が相手を傷つけているとは考えないのでしょうか?
いつまでも従順に自分に添っていると思ってるのかしら?
「俺はさ、キミを残していけないから出家していないんだよ?」
「それなのに、キミは俺を見捨てるの?」
誰よりも愛されていると思っていたのに、正室に迎えたのは若くて身分の高い内親王。
誰よりも愛されていると思っていたのに、自分は正室ではなかった。おまけに元カノとまで復縁。
娘として育てた姫君も嫁いでいった。そろそろ後世の為に出家をしよう。あの人とは離れよう。あの人には正室や他にも奥さんや恋人がたくさん側にいる。わたしがいなくなってもあの人は大丈夫。
紫の上はそんな風に考えたのかもしれませんよね。
この時代、女性から離婚できません。夫から自由になるには「出家」という形をとるしかないのでしょう。
朧月夜や朝顔の君は自分で時期を見計らって出家をします。彼女たちは源氏の妻でもなく、源氏の許可を得ることもなく、自分のタイミングで出家ができました。まぁ? 源氏に「出家しようと思うの」なんて打診をすれば間違いなく引き止められたんでしょうけれどね。
それにひきかえ常に源氏と一緒にいる紫の上には自由がありません。しかも人の気持ちを想いやることができて優しく賢い彼女は源氏の許しなく勝手な行動をとりません。
まるで見えない鎖で源氏に繋がれているよう。
キミは素晴らしい
キミを愛してる
俺とキミはふたりでひとつ
連理の枝
比翼の鳥
そんな言葉で紫の上を縛り、自由を奪い、最後の望みすら拒絶して。
確かに愛されもしたけれど、どうしてこんなにも傷つけられるんだろう。
どうしてこんなにも押さえつけられるんだろう。
どうしてこんなにも哀しいんだろう。
式部センセイは紫の上を通して何を伝えたいんだろう。
女の不自由さ?
女の憐れさ?
女の哀しみ?
おそらく当時の女性の理想像として描いているであろう彼女に歩ませるこの人生は理想の生き方なのでしょうか?
千年後のワタシたちに強烈に訴えかけてきます。
幸せってなに?
愛ってなに?
☆【超訳】源氏物語のご案内
関連するエピソードはこちら。よかったらご覧になってくださいね。
episode35-2 春の演奏会とある願い 若菜下
https://kakuyomu.jp/works/1177354054881684388/episodes/1177354054885620637
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