episode39 堅物な浮気、不器用な本気 夕霧

◇夕霧ざっくりあらすじ

 柏木の遺言で未亡人の女二宮の世話をしていた夕霧ですが、とうとう女二宮に告白をします。けれども受け入れてもらえません。母親の一条御息所はこの交際に反対しながら亡くなります。夕霧は結婚の儀式を整えますが女二宮には拒まれたままで、不服に思った正室の雲居の雁は実家に帰ってしまいます。



【超訳】夕霧

源氏 50歳 紫の上 42歳

夕霧 29歳 雲居の雁 31歳



―― 夕霧の恋 ――

 世間ではカタブツ扱いの夕霧だったんだけれど、女二宮への想いは募るばかりで、亡くなった柏木の遺言を口実にちょくちょく会いに行っているの。ただ最初は色恋がらみで通いはじめたわけじゃないから急に付き合って下さいと告白もできなくて、でも女二宮さまの気持ちが僕に向いてくれたらいいなぁなんて思っているの。まだ女二宮の声も夕霧は聞いたことがないの。(もちろん姿なんて見たことがない)

 女二宮のお母さんの一条御息所の具合が悪くて小野(現京都市左京区修学院あたり)というところで療養していて、なんやかんやと用事を作ってはそこへ通う夕霧を雲居の雁も怪しんでいるみたい。


 小野の山荘は都のお屋敷と違って小ぢんまりした造りだから距離感も近くて、女二宮さまとも御簾一枚隔てた場所で話ができたみたい。初めて女二宮の声が聞けた夕霧は喜ぶんだけど、女二宮の言葉がそっけないのよね。

 日が落ちてくるころにお母さんの具合が悪くなったみたいで多くの女房達がそっちに行ってしまうの。あたりは霧がたちこめてくるの。


~ 山里の 哀れを添ふる 夕霧に 立ちでんそらも なきここちして ~

(夕霧で雰囲気いいから帰りたくないな……)


 こんな霧じゃ帰れないよ、と夕霧は思わせぶりな歌を詠むの。


~ 山がつの まがきをこめて 立つ霧も 心空なる 人はとどめず ~

(垣根を立ちこめる霧も浮ついた人を引き留めたりしてないわ)


 帰ってくれていいのよ、と女二宮は詠うんだけど、返歌をしてもらえた夕霧は嬉しくて本当に帰ることを忘れてしまうの。


「ひどいね。道も見えないのに追い返すの? 恋愛経験値が低い僕はどうしたらいいの?」


―― 夕霧の強行突破? ――

 夕霧は告白めいたことを言い始めるの。女二宮も今までも夕霧の気持ちに気づいていないわけではなかったんだけど、知らないフリをしていたのね。でも言葉で言われると困ってしまって女二宮は返事をしなくなるの。夕霧はこんなチャンスは二度とないだろうって思っているみたい。自分の従者たちには近くの荘園に泊まるように指示して自分はここに泊まっていくことにしちゃうの。


 女二宮は困ってしまうんだけど、自分ひとり別の部屋にいくわけにもいかずおろおろするの。するとちょうど女房が女二宮のところへ行こうと御簾をあげたスキに夕霧も一緒に御簾の中に入ってしまうの。女二宮は怖くなって別の部屋に逃げようとするんだけど、襖子からかみ(ふすま)のところで夕霧に衣装をつかまれちゃうの。女房も女二宮から離れてくれるようにお願いするんだけど、夕霧はかまわず女二宮に語り始めるの。もう何年も通ってきていて僕のこと信用してくれてるでしょ? 安全なオトコだってわかってるでしょ? 僕の気持ちだけでも聞いてよ。無理やりなことは絶対にしないから、なんていう風につらつらと口説くの。


「こんなふすま一枚で僕の恋心を防ごうとするの?」


 そんなことは言いながらも夕霧は無理矢理に一線を越えようとはしないのね。女二宮は気品があって薫香の匂いも素敵で可憐な人だったの。夕霧はすっかり盛り上がっちゃうの。


「あなたの許しなくこれ以上のことはしないから」

「何年も通っていて僕が安全な男だってわかっているでしょ?」


 でもあまりに女二宮が打ち解けてくれないので、

「あんまり頑ななら僕も行動に移すかもしれないよ。あなただってバツイチなんだからこんなとき男がどうしたいのか知ってるでしょ?」

 なんて夕霧は言うのよ。

「未亡人だからってそんな言われ方をしなきゃいけないの?」

 怒ってしまった女二宮に謝りながらも夕霧は彼女を抱き寄せて月の見えるとこまで連れていくの。

「もう僕でいいでしょ。僕にまかせてよ」

 絶対にムリなことはしないからって言っているうちに夜が明けていったのよ。


 女二宮にしてみれば正式な結婚だった柏木にもそんなには愛されず幸せな結婚生活ではなかったのに、こんな成り行きで夕霧の愛人のようになりたくはなかったのね。それに夕霧は柏木の妹(雲居の雁)の夫だから柏木たちのお父さんの前大臣にきっと悪く思われるって恐れているのね。


「こんな霧の中を追い返してうまくいったなんて思わないでよね」

「わたしが悪いみたいに言うのね」

 そんな言葉のやりとりをするの。

 今までの亡き夫の親切な友人ポジションから急に恋人立候補したはいいけれどうまくいかず、これからどうしたもんだ? と悩みながら夕霧は帰って行ったみたいね。


―― 一条御息所の怒り ――

 雲居の雁に朝帰りを責められるのを避けたい夕霧は六条院の花散里のところに帰ってそこから女二宮に手紙を書くの。

「ツレないあなたのところに魂を置いてきちゃってどうしたらいいか自分でもわからないんだ」

 でも後朝きぬぎぬの歌(夜デートをした恋人に贈る歌)のように色っぽくない内容の手紙や歌に女二宮の女房たちも「ふたりはくっついたの? なにもなかったの?」とウワサしあうの。そして女二宮がふさぎ込んでいるから女房たちも女二宮の将来を心配するの。


 お母さんの一条御息所の病状は安定したみたい。すると祈祷にきていた僧侶が夕霧の朝帰りを見たと御息所に話してしまうの。僧侶は夕霧の正室の雲居の雁の権勢がとても強いから夕霧との結婚は賛成できないって話すのよね。

 御息所は女二宮を呼び出して話を聞こうとするの。元々内親王は独身が通例なのに気の進まない結婚をしてその夫に先立たれ、その上再婚というのは当時では考えられないくらい非常識なことなのね。それでも夕霧が誠実で女二宮を大事にしてくれるのならいいんだけど、今夜は来られないなんて手紙だけを寄越すから御息所は怒ってしまうの。

 夕霧にしてみればまだ結婚していない(一線を越えていない)から続けて通わなくてもいいと思っているの。女二宮ともちょっと気まずいしね。でも御息所は結婚するなら三日は通わないといけないのに二日目の夜は来るつもりがないの? と憤るのね。

 御息所は息も絶え絶えに夕霧に手紙を書くの。あまりに乱れた筆跡で読みづらいんだけど、自宅で読んでいる最中にその手紙を雲居の雁が取り上げてしまったから夕霧は返事も書けなかったの。


 翌日、やっとのことで昨日の御息所の手紙を見つけ出すと、女二宮のことは一夜限りの遊びなのかなんて書いてあってビックリ。夕霧はすぐにでも御息所のところに行こうとするんだけど、その日は出かけられない凶日で仕方なくまた手紙だけを届けたの。

 ちっとも反応リアクションのない夕霧に御息所は怒り心頭。女二宮は男女の仲になっていないと言い訳がしたいんだけど、それすら言えないで泣いてばかりなの。

 そんなところに夕霧の手紙が届くから、今夜も来ないのかと絶望しながら亡くなってしまったの。


―― 奇妙な結婚 ――

 一条御息所が亡くなったので夕霧も駆けつけるんだけど、女二宮は夕霧のせいでお母さんが死んだとまで思い詰めているの。

 葬儀も終わって日にちが経っても女二宮は心を開こうとはしてくれないの。このまま出家をしてしまいたいと思っているみたい。夕霧が手紙を出してもスルーされて、夕霧は夕霧で悩んでいるのね。そんな夕霧に雲居の雁も面白くなく思うわね。


~ 哀れをも いかに知りてか 慰めん るや恋しき 無きや悲しき ~

(何が原因で落ち込んでいるのかしらね? 生きている人が恋しいの? 亡くなった方が悲しいの?)


 皮肉めいた雲居の雁の歌に夕霧は「世の中全てが無常だからね」とかわすから、「すっとぼけてアタマにくるわね」と雲居の雁がもっと怒っちゃうの。源氏と複数の奥さんたちのように一夫多妻が一般的なのに、自分は珍しく誠実な夫を持ち、親兄弟や世間からも羨ましがられていた雲居の雁は今頃になって夕霧に裏切られて惨めだわって嘆いているの。


 源氏にもこのウワサは届いていて、自分の「女好き」な不名誉を真面目な夕霧が挽回してくれていると思っていたら、ここへきての浮気騒ぎなのかって心配してるの。でものめり込んでいる人間に何を言ってもムダだとあえてお説教はしないのよね。

 それより自分が亡くなったあとに紫の上をめぐってこんな騒ぎにならないかと心配するの。紫の上は雲居の雁や女二宮に同情して女の一生の哀れさを嘆くの。恋しい気持ちも心惹かれる想いも抑えなきゃいけないなら女にとって何が幸せなの? 女はいつも男のいいなりなの? 

 今の生きがいは明石女御の産んだ内親王のお世話だけみたいなのよね。


 御息所の四十九日の法要を夕霧が取り仕切ったので、夕霧と女二宮のことがオフィシャルに知られるようになったの。女二宮のお父さんの朱雀上皇は女三宮が出家したばかりであるし、夕霧との仲がよくないから出家したと思われるのも外聞が悪いからと女二宮の出家を反対するの。


 夕霧も女二宮との仲がいつまでも進展しないので、女二宮の自宅を改築して山荘から連れ戻そうとするの。引っ越しの日に女二宮はこのまま山荘で死んでしまいたい、好きでもない人と結婚したくないと泣くんだけど、そうもいかず一条のお邸に連れていかれるの。


 夕霧の本宅(雲居の雁と住んでいる三条邸)でも急な結婚に驚いているの。今まで恋愛沙汰を起こしたことのないヒトに限って突然こんなことをするのね、なんて言っているみたい。


 新婚初夜なのに女二宮は夕霧と会おうともしないの。あげくに塗籠ぬりごめ(物置部屋)に鍵をかけて閉じこもっちゃうの。ひどい仕打ちをされる夕霧も呆れるやら悲しいやら、何もできないまま朝になってしまい六条院に向かうの。


―― 結婚の余波 ――

 六条院では母親代わりの花散里が待っていて、成り行きを聞かれるの。夕霧は御息所の遺言で女二宮のお世話を頼まれたなんてウソをつくんだけれど、花散里は正室の雲居の雁に同情をするの。

「それにしても面白いのは殿(源氏)が自分の多重恋愛を棚に上げて、あなたの騒動を大事件みたいに騒ぐのよ」

 花散里がそう可笑しがるの。

「いつも女性問題には厳しいんだよね」

 夕霧も花散里と源氏の話題で心を和ませるの。

 源氏も夕霧の結婚のことは聞いたけれど何も言わなかったの。夕霧があまりに美しくて立派な男性だから、恋愛騒ぎを起こすのも仕方ないかなって思うの。女子ならみんな夕霧に恋をするだろうなって思ったんですって。


―― 雲居の雁の家出 ――

 そのころ雲居の雁は三条の自宅でふて寝をしているの。夕霧がなんとかなだめても雲居の雁のご機嫌は戻らないみたい。


「来るところを間違えてるんじゃないの?(私は女二宮さまじゃないわよ)」

「(夕霧の結婚のことなんてもう聞きたくないから)もう死んじゃうわよ。でもあなたを残していくと気がかりだし……」

 怒っていながらも愛敬のある雲居の雁なの。夕霧もクスッと笑っちゃうの。昔は雲居の雁と結婚するまでにどんなに苦労をしたんだろうって思い返すの。


~ 馴るる身を 恨みんよりは 松島の あまの衣に たちやかへまし ~

(長い間一緒にいた自分にムカつくから、いっそ尼になっちゃおうかしら)


~ 松島の あまの濡衣 馴れぬとて 脱ぎ変へつてふ 名を立ためやは ~

(長い間一緒にいた僕を嫌って尼になったなんて言われないようにね)


 多くの女性たちの中で一番愛されるのが女性としてのステイタスなんじゃない? なんて言って夕霧は雲居の雁を持ち上げるんだけど、今までが品行方正な夫だっただけに雲居の雁はショックなのよね。


 夜になってまた女二宮の一条のお邸に行くんだけど(婚礼3日間は通わなきゃいけないから)、まだ女二宮は塗籠に籠っているの。それで夕霧は女房を説得して鍵のかかっていない戸口に案内してもらい女二宮の部屋に入るの。僕に任せてほしいと話すんだけど、女二宮は泣いてばかりなの。雲居の雁との仲を気まずくさせてまで口説いた女性なのに、こんなに嫌われているなんてと夕霧は落ち込むのよ。それでも一応は夫婦になって、マメに女二宮の世話をして一条のお屋敷に居続けるの。


 雲居の雁はもうおしまいだと思い、実家に帰ってしまうの。夕霧は短気な雲居の雁に腹を立てて三条の自宅に戻るように手紙を書くんだけど帰ってこないの。数日後に夕霧が実家を訪れて話し合いをするんだけれど決裂。雲居の雁のお父さんの前太政大臣も娘の家出を短絡的だとは言いながらも頭を下げて戻ることもないと実家での滞在を許しちゃうの。


~ 契りあれや 君を心に とどめおきて 哀れと思ひ 恨めしと聞く ~

(あなたとはご縁があるのですね。息子の未亡人でお気の毒と思っていたら今度は娘婿の浮気相手なんですから)


 前太政大臣にしてみれば、亡き息子(柏木)の嫁が娘婿(夕霧)を奪ったように思えて、女二宮に愚痴のような手紙を送ってしまうの。女二宮も柏木との結婚だって夕霧との再婚だってしたくてしたわけではないのにと落ち込み、誰にとっても幸せではないのよね。


 雲居の雁も実家でも沈んでいるの。そこに夕霧の側室の藤典侍とうのないしのすけから手紙が届くの。


~ 数ならば 身に知られまし 世の憂さを 人のためにも 濡らす袖かな ~

(正式な妻ではないけれど、奥様のお気持ちを考えると泣けてきます)


 乱れる心をお察ししますとの内容に最初はイヤミかしらと腹を立てたんだけど、同じヒトを愛する女性として彼女だって今回のことは傷ついただろうにって考え直して丁寧に返事を出したの。


~ 人の世の 憂きを哀れと 見しかども 身に代へんとは 思はざりしを ~

(よその夫婦仲の悪さをヒトゴトって思ってたけれど、まさか自分もそうなるなんて思いもしなかったわ)


 雲居の雁からの返事を受け取った藤典侍は本当にそのとおりだわと同情したのよね。

 夕霧は雲居の雁とのあいだに8人の子どもがいて、藤典侍も4人の子どもを産んでいるの。藤典侍の子どもうち次男と三女は六条院で花散里が育てていたの。


 

◇今まで雲居の雁一途だった夕霧が女二宮と結婚してしまいました。そうはいっても雲居の雁には家出され、女二宮にはまだ打ち解けてもらえず前途多難な夕霧の恋ですね。



~ 山里の 哀れを添ふる 夕霧に 立ちでんそらも なきここちして ~

夕霧が女二宮に贈った歌


~ 山がつの まがきをこめて 立つ霧も 心空なる 人はとどめず ~

女二宮が夕霧に返した歌




第三十九帖 夕霧



☆☆☆

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