episode38 想いが交錯する秋の月夜  鈴虫

◇鈴虫ざっくりあらすじ

 出家した女三宮は仏堂のお勤めをする毎日ですが、出家を惜しむ源氏は今頃になって優しく接してきて女三宮は戸惑います。

 また秋の月夜を楽しんでいると冷泉院からの使いが来たので源氏たちは冷泉院邸で想い出深い夜を過ごします。


【超訳】鈴虫

源氏 50歳 紫の上 42歳

女三宮 24歳 夕霧 29歳

冷泉院 32歳 秋好中宮 41歳



―― 女三宮の憂鬱 ――

 夏になって源氏は女三宮のために仏像の開眼供養をするのね。仏堂を建てて仏具なんかも取り揃えてあげるの。源氏手書きの経典はぱっと見だけでも目がくらむほどなんですって。源氏が女三宮の部屋を覗いてみると5、60人くらいの女房たちがひしめき合っているの。焚きすぎてキツイ香りのお香のことやあれやこれやと源氏は口うるさく指示をするの。そんな中で可憐な尼姿の女三宮を見ると、やっぱり出家させたのはもったいなかったなぁと悔やむみたい。


~ 蓮葉はちすばを 同じうてなと 契りおきて 露の分かるる 今日けふぞ悲しき ~

(生まれ変わっても一緒にいようって約束をしたのに、別々に別れる今日が悲しいよ)


 あなたが自分より先に出家してこんな儀式をすることになるなんて思わなかったよ、源氏は歌を詠んで泣くんですって。


~ 隔てなく はちすの宿を ちぎりても 君が心 やすまじとすらん ~

(生まれ変わっても一緒にだなんて思ってもいないでしょうに)


 女三宮がそう返歌するので、俺って信用ないんだね、と源氏は苦笑するの。


 女三宮が出家した今頃になって、源氏は優しく接しているのね。でも女三宮はゆくゆくは源氏の六条院を出て、朱雀院から譲られた三条のお屋敷を修理してそこに住むことにするみたい。今は源氏がまだ六条院に留めているんだけれどね。


 秋になると庭に鈴虫や松虫を放って、夕暮れに源氏は虫の音をBGMに女三宮を口説いているの。あの秘密が源氏に知られてしまい軽蔑されるから出家したのに、尼になった自分を源氏が口説くから女三宮は戸惑ってしまい、迷惑にすら感じるの。

 

「賑やかに鳴く鈴虫が可愛いね」

 秋の虫のことをああだこうだと源氏が語るの。


~ 大かたの 秋(飽き)をばしと 知りにしを 振り捨てがたき 鈴虫の声 ~

(あなたがわたくしに飽きたってことは知ってるけれど、鈴虫の声には惹かれるわ)


 飽きたなんて、なんてこと言うんだよ、と源氏は返歌をするの。


~ 心もて 草の宿りを いとへども なほ鈴虫の 声ぞふりせぬ ~

(自分から六条院を出て行こうとするけど、キミへの想いは変わらないんだよ)


 そんな中で源氏が琴を弾くの。世を捨てた女三宮もさすがに琴の音色にだけは心惹かれたんですって。

 女三宮や朧月夜に朝顔の君など自分と関わりのあった女君も何人か出家してしまったなぁって源氏はしみじみ琴を弾いたの。


―― 冷泉院邸での月の夜 ――

 十五夜ということで源氏の弟の蛍兵部卿宮が源氏の所にやってくるの。夕霧も一緒で琴の音色を聴きつけて来たみたい。他にも貴族たちが集まってお月見と虫の音を愛でる宴会になるの。

 こんな宴には柏木がいてくれたら華やかだっただろうなと源氏が懐かしむの。今の台詞を御簾の内の女三宮はどんな想いで聞いているんだろう、とも源氏は思うの。こんな音楽を楽しむ夜にはみんな柏木を偲ぶのよね。帝でさえも何かの折に柏木を思い出されているいみたい。

 そんなところに冷泉院からの御使いが来るの。


~ 雲の上を かけはなれたる 住家すみかにも 物忘れせぬ 秋の夜の月 ~

(退位して宮中からは離れたけれど、ここも秋の月が照らしているよ)


 退位して重責から解放されて悠々自適に暮らしていらっしゃるのに、そういえばご挨拶にも行っていなかったと皆で冷泉院のお邸に移動することにするの。


~ 月影は 同じ雲井に 見えながら わが宿からの 秋ぞ変はれる ~

(冷泉院は昔も今もお変わりありませんが、わたしの方がすっかり変わってしまいました)


 そんな歌を詠んで訪ねてきた源氏たち突然の来客を冷泉院は喜んだの。整った美しい顔立ちの冷泉院はますます源氏とそっくりになってくるの。漢詩を詠んだり、音楽を演奏したりして源氏達と楽しい夜を過ごしたみたいね。


 翌日、源氏は秋好中宮のお部屋を訪ねるの。周りの人たちが次々に出家をするので、中宮さまも出家をして母親の六条御息所の供養をしたいと話すの。源氏もお考えは尊重するけれど、急がず準備すればいいと伝えるのよね。

 源氏も秋好中宮も身分が重くしがらみがいろいろあって、簡単には出家をできそうにないのね。だから供養だけでもということで六条御息所の法事をすることにしたみたいよ。


 朝になって源氏は六条院に帰りながら自分の子どものことを想うの。

 大切に育てた明石の女御は素晴らしい女性に成長したし、夕霧も立派でふたりとも愛しているけれど、冷泉院のことはふたり以上に特別に想っている源氏だったのよね。冷泉院も帝であるうちはなかなか父である源氏と会えないので、気軽に行き来ができるようにというのも譲位した理由みたいなんですって。

 



◇風流な秋の月夜に源氏の胸にはさまざまな想いがよぎります。音楽や歌のセンスのよかった亡き柏木を偲び、親子の名乗りができない冷泉帝のことを想います。もの思いにふける秋といったところでしょうか。



~ 大かたの 秋(飽き)をばしと 知りにしを 振り捨てがたき 鈴虫の声 ~

女三宮が源氏に贈った歌



第三十八帖 鈴虫


☆☆☆

【別冊】源氏物語のご案内

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topics31 満ちる月と欠けた心

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881765812/episodes/1177354054885970192

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