episode5 過ちと略奪         若紫

 ◇若紫ざっくりあらすじ

 源氏の君は憧れの藤壺の宮さまとよく似た少女を見かけます。その藤壺の宮さまとはとうとう一線を越えてしまい、宮さまは妊娠してしまいます。そして宮さまによく似た少女を二条院に連れてきて紫の君と名付けて一緒に暮らしはじめます。


【超訳】若紫

 源氏 18歳 藤壺の宮 23歳

 葵の上 22歳

 紫の君 10歳 明石の君 9歳



 ―― 明石の姫君の話 ――

 春になって、18歳になっていた源氏は体調を崩して北山(現・京都市北区)というところにいる僧侶を訪ねて加持祈祷(お祓い)をしてもらうの。

 北山の景色は素晴らしく源氏の気分も晴れてきたみたい。そこで家来の源良清みなもとのよしきよがある男の話を始めるの。播磨(現・兵庫県)の明石の浦に住む明石入道あかしのにゅうどうという人で、都での出世を捨てて、明石に豪邸を建てて悠々自適に暮らしているらしいのね。それで娘がひとりいるんだけれど、その入道は最上の男性とめぐり逢えない場合は海に身を投げて死んでしまいなさいと話しているというの。

「龍宮城の妃にでもするんじゃないの?」

 源氏も少し茶化しながら話を聞いていたみたい。一緒にいた家来たちも源氏がその娘に興味を持ったなって気づいたみたいね。


 ―― 紫の上との出逢い ――

 あたりを散歩していると、僧侶の家に女性の姿が見えたの。夕方、従者の惟光これみつだけを連れてもう一度その僧侶の家に行ってみると、可愛らしい10歳くらいの少女が泣いているのを慰める尼の姿が見えたの。幼い少女は他の子供達とは違って、将来はどんな美人になるだろうと思わせる美しさがあったのね。

「だれかがすずめをにがしちゃったの。かごのなかにとじこめておいたのに……」

 少女は雀が逃げたことで泣いているみたいね。

「まあ、まだまだ赤ちゃんで困ったことね。おばあちゃまもいつまで生きていられるか分からないのに……」

 顔つきがとっても可愛らしくて髪もつやっつやなの。


(こんなにカワイイコに会えるなんてな……)

 どことなく憧れの藤壺の宮さまに似ている気がして、源氏は急激に好意をもってしまうのね。

 

 夜になって僧侶と対面して、夕方見かけたふたりのことを尋ねてみたの。すると尼は僧侶の妹で、少女は尼の孫娘で兵部卿宮ひょうぶのきょうのみやの娘ということだったの。兵部卿宮というのがあの藤壺の宮さまのお兄さんだったのよ。だから藤壺の宮さまとこの少女は叔母と姪という関係で血がつながっていたの。だからあんなに似ていたんだとまたもや源氏はときめいてしまうのね。

 源氏は一緒に暮らして自分の理想通りに育ててみたいなぁなんて思っちゃうの。そこで僧侶に少女を預かりたいと言うんだけれど、本気にはしてもらえないのよね。

 少女の祖母の尼にも結婚を前提に手元で育てたいと伝えたんだけど、

「うちの孫はまだ子どもでお相手は務まりませんのよ」

 とやんわり源氏の申し出を断ったの。


 そろそろ病気も治ったんじゃねぇの? と友人の頭中将とうのちゅうじょう達が迎えにやってきて、花見の宴を開いたの。このとき少女も源氏の姿をちらっと見かけたの。こんなに美しい男の人がいるの? と幼心にも思ったみたい。

 女房が「あの方のお子様になりますか?」と聞くといいわよって頷くの。それから少女はお人形遊びのときも絵を描くときも源氏の君を登場させたんですって。


 都に戻った源氏は宮中でお父さんの帝に会い、病気で休んでいたことを謝り、それから奥さんの葵の上のいる左大臣家にも挨拶に行くの。でも相変わらず葵の上は冷たく憎まれ口しかきいてくれなくて、ひとりで横になりながら思ったのはあの少女のことなのよね。憧れの人と血のつながりのある可愛らしい姫をなんとかして手に入れられないかって考えていたのよね。



 ―― 藤壺の宮との過ち ――

 そんな頃、藤壺の宮さまが宮中からご実家にお宿下がりされたの。今で言う帰省みたいなものかしら。源氏は今がチャンスとばかりに藤壺の宮さまのお付きの女房の王命婦おうのみょうぶに協力してもらって、藤壺の宮さまのところに忍び込むの。父である帝を裏切って。命をかけて。

 藤壺の宮さまも過去に一回だけ犯してしまったその罪をもう一度は重ねられませんと源氏を拒むのだけれど、ふたりは結ばれてしまうのよ。犯した罪の重さにおののく宮さまだけれど、柔らかな魅力があって最高の女性だ、欠点がひとつもないから死ぬほど惹かれるんだ、と源氏はひとり盛り上がっちゃってるのよね。永遠に夜が続いてほしいなんて源氏は願うけれど、残念ながら別れの朝はやってくるわね。


~ 見てもまた 逢ふ夜稀なる 夢の中に やがでまぎるる わが身ともがな ~

(やっとこうして想いを遂げられたけれど、また逢えるなんてきっと叶わない夢だからこの夢の中に埋もれてしまいたいよ)


~ 世語りに 人やつたへん 類ひなく 憂き身をさめぬ 夢になしても ~

(覚めることのない夢の中での出来事だとしても知られてしまうのが心配だわ=恐ろしい罪を犯してしまったのだわ)


 一晩過ごしたあとで源氏は自宅の二条院に戻って2,3日引きこもってしまうの。宮さまに手紙を出しても、「ご覧になりませんでした」との王命婦からの返事しかないのね。源氏も想いは遂げられたけれど、これからのことを思うと辛い気持ちの方が強かったでしょうね。お互いに好きでいても、現帝の女御(きさき)と帝の息子。とんでもない罪の関係だものね。


 藤壺の宮さまは思い悩む日々が続き、体調もよくないのでずっと実家に滞在していたんだけれど、妊娠がわかってしまうの。あれ? 時期的に今頃? なんて宮中でも帝も思われたのだけれど、物の怪もののけ(人にとりつく霊)のせいでしょうなんて言ってごまかしたの。もちろん、源氏も協力した王命婦も生きた心地もしないで、恐ろしくなってしまうのね。そして藤壺の宮さまはいつまでも実家にいるわけにもいかず、恐ろしいほどの罪の意識の中、宮中に戻られたの。


 源氏は以前変わった夢を見たときに、占者を呼んで夢解きをしてもらったことを思い出すの。その占いでは将来帝になる子が産まれるって言われたの。源氏は元皇子でも今は臣下なので、臣下の子どもが帝になるなんてことは有り得ないのに、占いにはそう出たのね。

 でもこうして藤壺の宮さまが妊娠なさったことを知ると、それってあの夢占いがあたったんじゃないかって源氏は思うの。藤壺の宮さまが産む子どもなら帝になる可能性はあるものね。あくまでも桐壺帝の子どもとしてなんだけどね。

 源氏は自分の子を妊娠している藤壺の宮さまに逢いたいと王命婦に何度も頼むんだけれど、断固としてとりあってくれなかったの。


 宮中に戻ると、最愛の藤壺の宮さまのご懐妊だから帝はますます宮さまを大事になさって、しょっちゅう藤壺にお通いになるの。そしてそろそろ体調もいいようならと、藤壺で音楽の遊びをしようと源氏達若い人たちを呼んで琴や笛を演奏させたの。もちろん源氏は何事もないように振舞ったけれど、時々見せる切ない様子に藤壺の宮さまは気づかれたみたいで、やっぱりお互いツライ想いをしたみたいね。決して誰にも言えないものね。

 


 ―― 紫の君を二条院へ ――

 藤壺の宮さまとの件で、春に出逢った少女のことを忘れていた源氏なんだけど、秋になってまた少女を引き取りたいって祖母の尼にお願いに行くんだけれど、お許しが出ないうちにおばあさまは亡くなってしまうの。

 少女の住んでいるお屋敷に行って、女房達から源氏は事情を聞くと、どうやら少女の父親の兵部卿宮が引き取りに来るらしいのだけれど、兵部卿宮には正室がいて、兵部卿宮のお屋敷で正室の子どもではないこの少女がいじめられはしないかと女房達は心配していたみたい。


 少女の家はとても荒れていて、ついている女房も少なく、とても心細かったみたい。源氏は可哀想にと同情するの。

「男の方がいらしたって、おとうさまがいらしたの?」

 少女が部屋に入ってきたの。でも少女はお父さんじゃない初対面の光源氏に驚いちゃうの。

「引き取りたいとおっしゃってくださる姫はこんなに子供なんですよ」

 と少納言という女房が源氏に話すの。それでも可愛らしい姫を見た源氏は盛り上がってしまうのね。そして今日はもう天気も悪いし、自分がついているからと屋敷の戸締りを家来たちに命令して、姫や女房たちと一緒に過ごしたの。

「おもしろい絵とかお人形もたくさんあるから、ウチにおいで」

 と優しく話かけているうちに、姫さまも安心したみたい。女房達も心細い夜に源氏がついていてくれたことに感謝して、

「これで姫さまが源氏の君に釣りあう年齢ならどんなによかったかしらね」

 と噂しあったみたい。


 数日後、惟光をそのお屋敷に行かせてみると慌ただしい様子で、明日兵部卿宮が迎えにくるらしく、準備に追われていたんですって。それを聞いた源氏は夜も明けきらないうちに兵部卿宮より先に屋敷に向かい、まだ寝ていた少女を抱きかかえて二条院へ連れてきてしまったの。

 最初は寂しさと恐ろしさで泣いていた少女だったんだけど、源氏が優しく話したり遊んだりしてくれるうちに打ち解けていったみたいね。

 一方、兵部卿宮は少女の失踪に落ち込んだみたい。



 ~ 手に摘みて いつしかも見む むらさきの 根にかよひける 野辺の若草 ~

(俺のそばで見ていたいんだ。憧れの人とよく似た可愛いキミをね)


 こんな歌を源氏は詠んだの。そうして、これからこの少女を紫の君と呼ぶことにして二条院で一緒に暮らすことにしたの。このとき源氏が18歳、紫の君が10歳。



◇そう、この紫の君がのちの紫の上ね。いろいろな見方はあるけれど、源氏がもっとも愛した女性かな。幼い頃から理想の女性にと育てて愛するのよね。

 藤壺の宮さまとの過ちと紫の君の略奪。5帖の若紫はなにやら犯罪めいているわね。今ならワイドショーが大騒ぎ? 



~ 手に摘みて いつしかも見む むらさきの 根にかよひける 野辺の若草 ~

源氏宰相中将が紫の君へと詠んだ歌



第五帖 若紫



☆☆☆

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