episode23 源氏と六条院の新年    初音

 ◇初音ざっくりあらすじ

 お正月を迎えた六条院と二条院の様子です。それぞれの女君を源氏が訪ねます。

 宮中行事の一環で男踏歌おとことうかという行列が六条院にもやってきます。

 この時代の華やかな新年の様子が語られています。



【超訳】初音 玉鬘十帖

 源氏 36歳 紫の上 28歳

 玉鬘 22歳 

 明石の姫君 8歳 夕霧 15歳



 ―― 六条院・春の町でのお正月 ――

 年が明けて新年になったの。一点の曇りのないうららかな一日。雪の間からは若い緑がのぞき、人々のこころものびやかな心地みたいなの。六条院のお庭はそれはそれは一段と素晴らしいのね。その様子を表す言葉がみつからないくらいにね。

 特に春の町は季節柄素敵な眺めなのね。梅の香りは御簾内まで漂ってきて、薫香(薫物たきもの)と相まってまるで天国のようなんですって。紫の上は歯固めの祝い(お正月に固いものを食べて長寿と丈夫を願う儀式)をしているの。 源氏もやってきてお互い歌を詠みあって新年のお祝いをするの。


~ うす氷 解けぬる池の 鏡には 世にたぐひなき 影ぞ並べる ~

(氷の解けた池の鏡に俺たちふたりきりの姿が映ってるよ)


~ 曇りなき 池の鏡に よろづ代を すむげき影ぞ しるく見えける ~

(曇りのない池の鏡に永遠にいつまでも一緒にいるわたしたちが映っているわね)


 そんな風になにかにつけて愛を語り合う歌を詠みあったんですって。


 源氏が明石の姫君の部屋へと行くと、姫君付きの童女たちが新年の遊びをしていて華やかなのね。母親の明石の御方からもいろいろな贈り物が届いているの。明石の君から姫君宛てに新春のお手紙も添えられていたので、源氏は姫君に返事を書かせたの。


 ~ 年月を まつにひかれて る人に 今日鶯の 初音きかせよ ~

(あなたの成長を楽しみに待っているわたくしに今年初めてのお便りをお聞かせくださいね)


~ 引き分かれ 年はれども 鶯の 巣立ちし松の 根を忘れめや ~

(お別れして何年か経ったけれど、産んでくださったお母様のことは忘れていません)


 こんなに可愛らしく成長しているのに、別れさせた日から会わせてやっていない明石の御方に対して「罪だよなぁ。悪いよなぁ」と源氏は心苦しく思うの。



―― 夏の町の花散里 ――

 次に源氏は夏の町の花散里のところへ行くの。年はとったけれど優しい性格は変わらないままでやっぱり源氏にとっては心が落ち着く存在みたいね。カラダの関係なんかを超越して精神的に結びついている夫婦仲なんですって。そういう愛情は永久に続くだろうって源氏は花散里に逢うたびに思うのね。


 その次には玉鬘を訪ねるの。九州で苦労したからか髪の量はそんなには多くないんだけど(この頃髪の美しさは美人さんの条件なの)、山吹色のお着物が艶やかでとっても美しいの。玉鬘は華やかで輝くような美人さんなのね。源氏は紫の上とも会って仲良くするように玉鬘に話すの。玉鬘もその提案を受け入れたの。



―― 冬の町の明石の御方 ―― 

 夕暮れに源氏は冬の町の明石の御方のもとへ。部屋の入口からすでにステキな薫香くんこうが焚かれていて品のある雰囲気たっぷりなの。明石の姫君から届いた文の返事やそれに対して明石の御方が詠んだ歌もお部屋にはあったみたいね。源氏が選んだ衣装もとてもよく似合っていてとても美しい明石の御方に惚れ惚れしちゃうの。

 新年早々明石の御方の部屋に泊まると紫の上はきっと怒るだろうなと思いながらも、明石の御方の美しさとたおやかさに魅了されて夜を過ごす源氏。それでも夜が明ける前には紫の上のところへ戻ったので、今度は明石の御方が「こんなに早くに帰るの?」と寂しく感じてしまうの。そして春の御殿に帰ったら帰ったでやっぱり紫の上のご機嫌が悪かったみたいね。

「ちょっとうたた寝しちゃったら寝こんじゃってさぁ。誰かを迎えに来させてくれてもよかったのに」

 源氏はそんな風に紫の上におどけて言うんだけれど、紫の上からはろくに返事ももらえなかったみたい。


 次の日は紫の上とも顔を合わせづらいので新年の挨拶にやってきた公達と過ごしたの。みんな正装でいるんだけれど、やっぱり源氏の美しさはダントツみたいね。

 六条院を訪れた公達には今年は新しい楽しみもあったのよ。それはお年頃の姫君(玉鬘)がいるから。もちろん会ったりはできないんだろうけれど、なにか話が聞けるかも、なんてときめいてたんですって。


 ―― 二条院のひとびと ――

 新年の宮中行事もひと段落して、源氏は二条院に行くのね。元は源氏や紫の上が暮らしていたお屋敷だけれど、今は東の院に末摘花が暮らしているの。唯一のチャームポイントだった豊かな黒髪にも白髪がまじるようになっちゃって、おまけに寒いらしくてぶるぶる震えながらお話しているんですって。

 どうやら温かい皮の衣類はお兄さんの禅師の君にあげてしまったらしいの。正直で素直な末摘花らしいけれど、これではあんまりなので源氏は彼女のためにいろいろと絹織物を用意させたの。


 同じ東の院には空蝉も住んでいるのでそちらにも足を運ぶの。空蝉は出家していて尼さんらしく小ぢんまりとしているけれど、風情のある暮らしぶりだったの。懐かしい昔のことをふたりで話すんだけれど、元夫の息子(自分の息子ではない)から言い寄られたことを源氏が知っていたので、空蝉はとっても気まずく恥ずかしく思ったんですって。


 こんな風に生活の面倒を見てあげている恋人たちが源氏には何人もいて、あまり通わないと恨まれそうだけれど、そこは源氏もフォローしているのね。

「なかなか会いに来れないときもあるけれど、忘れてるわけじゃないから」

 源氏なりにそれぞれの人を大事にしているみたいね。

 

 ―― 男踏歌おとことうか ――

 宮中行事に男踏歌というのがあるのね。男たちの行列が御所から朱雀院のお屋敷に向かって、さらには六条院にもやってきたの。音楽を奏でて舞を舞う催し物なのね。六条院の夏の町の花散里も玉鬘もみんな春の町に集まって見物するの。玉鬘はこのときはじめて紫の上と対面したの。(几帳ごしにね)

 一月の明るい月のもと、降り積もった雪の景色の中での公達の姿はとても素晴らしいものだったの。それを眺めている女君がたのお衣装の袖のグラデーションが御簾の端からちらちらと見えていてそれがまた風流で雅やかだったんですって。

 男たちの行列の中には夕霧や内大臣(頭中将)の息子たちもいて玉鬘は自分の兄弟たちを御簾内から眺めるのね。

 源氏は夕霧の歌声がいいと褒めていたみたいね。

 普段は別々に暮らしている六条院の女君がただけれど、今回みたいに集まって管弦の遊びをするのも楽しそうだね、って源氏は思ったんですって。



 ◇お正月を迎えた源氏と源氏の周りの女君がたの様子が書かれたエピソードですね。また玉鬘は御簾ごしに自分の実の兄弟を見ることができて早く本当のお父さんの内大臣に知らせてほしいと思っているでしょうね。



 ~ 年月を まつにひかれて る人に 今日鶯の 初音きかせよ ~

 明石の御方が明石の姫君に贈った歌



 第二十三帖 初音


☆☆☆

【別冊】源氏物語のご案内

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topics15 大邸宅! 源氏の六条院!!

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881765812/episodes/1177354054884411539

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