topics15 大邸宅! 源氏の六条院!!

 第23帖 初音(【超訳】源氏物語episode23 源氏と六条院の新年)に寄せて


 今回の『第23帖 初音』では六条院で迎える新年について書かれました。源氏が造営した念願のマイホーム六条院です。華やかで美しく匂い立つような情景描写でした。源氏物語はもちろんフィクションの物語ですが、モデルとなった実在の人物や故事もよく登場します。この六条院もモデルのお屋敷があるそうです。


 源融みなもとのとおるという方のお屋敷の河原院がモデルだそうです。この源融ご本人も諸説ある光源氏のモデルのひとりとも言われているんですって。

 この方百人一首にも登場されます。「河原左大臣」というお名前です。


~ みちのくの しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし われならなくに ~

(陸奥の「しのぶもじぢずり」の乱れ模様の布みたいに僕の心が乱れてるのはキミのせいなんだよ) 『古今集』所収


 この方のお屋敷の河原院を現在の京都市の地図に当てはめることができるみたいです。ここに地図が添付できればいいのですが、かなわないのでよかったら京都の地図をご覧になってみてくださいね。京都市下京区五条通り付近、鴨川と東本願寺のあいだあたりです。河原院の敷地のあたりをぐるっと一周歩いてみますね。(地図上ですが……)


 

◇河原院(源氏物語では六条院)の南側は現在の六条通りあたりらしいです。東西にはしる六条通と交わる富小路通りを北に上がると、六条院の「秋の町」から「冬の町」へと移動していることになるんだそうです。


 六条院の「秋の町」は元は源氏の恋人六条御息所のお屋敷のあった場所ね。そのお屋敷を手入れして「秋の御殿」として六条御息所の娘の秋好中宮の帰省先とするの。滝が流れ山を配して紅葉を植え、秋の野山の風情を楽しめる庭にしたのよね。

 「冬の町」は明石の御方のお宅。雪が降り積もる様子を想定して松の木を植えて冬の庭を造るの。他の三つの町がいわゆる「寝殿造り」の御殿なのに対し、冬の町のお屋敷は対の屋が二棟あるだけの質素なものにしたのよね。


◇富小路通りを進むとやがて五条通に出ます。ここを右折して東に向かいます。六条院では「冬の町」から「夏の町」に向かうことになります。


 「夏の町」には花散里と夕霧が住んでいるの。玉鬘がやってきてからは玉鬘も「夏の町」の西の対に住むわね。夏らしい呉竹や撫子や菖蒲、薔薇そうびや花散里と源氏の出会いのきっかけにもなった花橘などの花々が植えられ、夕霧のために馬場や厩も造られたの。

 

◇そのまま五条通を東へ進むと鴨川に出るのですが、その少し手前を右折、河原町通を南に下がりますね。六条院の「夏の町」から「春の町」へと移動です。


 「春の町」は源氏と紫の上のお屋敷ね。源氏物語でのメインステージよね。明石の御方の産んだ源氏の娘、明石の姫君も紫の上が引き取って育てているので、ここ春の御殿で育つわね。春の庭らしく五葉、梅、桜、藤、山吹、岩躑躅つつじなどを植えて大きな池も造ったの。この池はおとなりの「秋の町」のお庭まで繋がっていて、秋好中宮さまと紫の上の「春と秋どっちが素晴らしいか対決」はこの池やお庭を使って行われたのよ。対決なんて言ってしまったけれど、なんとも贅沢で優雅な遊びだったのよね。



 河原町通りを六条通まで下がってきたらそこを右折して西に進んで富小路通りまで行けばこれで一周したことになります。京都にゆかりのある方、土地勘のある方ならそのスケールがおわかりになると思います。今やそのお邸跡と言われているところにいくつものお寺があります。そんな場所に一貴族のお屋敷だけがあったのですから壮大ですよね。


 ひとつの寝殿造りのお屋敷だって大豪邸です。(☆源氏の世界 ⑥当時のお屋敷)その寝殿造りのお屋敷が3つ(春・夏・秋)と少し小ぢんまりした冬のお屋敷がひとつ。そこに奥さん住まわせて……。


 どうなのかしらねぇ? 源氏くん的にはあっちやらこっちやらに牛車に乗って通うよりも便利なのかしら? 

 でも奥さん側にしてみたら自分のところにいない夜は

「また明石ちゃんのとこ? 花散さんのとこ??」

「いっつも紫さんのとこばっかじゃない!」

 ってことにならないかしらねぇ? いっそ牛車で目の届かない行ってくれた方がいいんじゃないかしら?


 花散里さんは「源氏くんのナンバーワン争い」には参戦していないし、独特のキャラで源氏くんの癒しの里だからそんなに嫉妬に狂っていないかもしれないけれど、紫の上と明石の御方ですよ。なんかお互いキーキーしません?

 だから今回の「初音」のお正月のシーンでも「紫の上が怒るだろうなぁ」と思いながらも源氏は明石の御方のところに泊まり、でも夜明け前には帰ろうとするから「こんなに早く帰んの?」と今度は明石の御方を寂しくさせたでしょう? 結局は紫の上にも明石の御方にもツライ想いをさせているのです。


 源氏くん、これが新居でしたかったことなんだろうか???


 自分がそんなにお気軽に春の御殿にも冬の御殿にも出かけられるんなら、どうして明石の姫君ちゃんも産みの親の明石の御方に会わせてあげなかったんだろう。世間的に名目上の母は身分の高い紫の上ってことにしておいて、お屋敷内では明石の御方と一緒に暮らせるようにしてあげればいいのに。紫の上も可愛がりたいならママ友感覚や親戚気分で関わらせてあげればよかったのに。


 と現代のワタシは思ってしまいますけれどね。

 ま、そもそも? 現代では愛人の子どもを妻が育てるなんぞありえませんけれどね(笑)。やっぱり摩訶不思議な平安恋愛事情です。


 さてさて、そんな六条院のモデルの河原院。1辺250メートル、総面積6万3500平方メートルだそうです。ざっくり東京ドーム1.3個分。そこに一軒。そりゃ4つの町にも区分けもできますね。お庭に山も滝も馬場も造れるわ。


 とんでもないお金持ちセレブだったのね。源融さんも源氏くんも。解説書には源氏くんのは現代の価値に換算すると何億にも上るとか。ですよ? 生涯収入じゃなくてね。


 貴族って儲かるのねぇ……。


 ごめんなさいね。今回はすごく下世話に終わってしまいます。




☆参考文献  

『源氏物語』光源氏の邸宅「六条院」を歩く     

https://blog.goo.ne.jp/kakitutei/e/dc193621e4fef7e29ca61513a4dd0c53



☆【超訳】源氏物語のご案内

関連するエピソードはこちら。よかったらご覧になってくださいね。


episode23 源氏と六条院の新年   初音

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881684388/episodes/1177354054884194158

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