episode24 娘なの? 恋人なの? 胡蝶
◇胡蝶ざっくりあらすじ
春爛漫の六条院では自慢の春の庭で宴が催されます。そんな宴でも一番の注目は源氏の娘(養女)の玉鬘です。
源氏は玉鬘のためにいい結婚相手を探そうとしますが、あまりに玉鬘が美しいのでふと恋心を抱いていると打ち明けてしまいます。
【超訳】胡蝶 玉鬘十帖
源氏 36歳 紫の上 28歳
玉鬘 22歳 秋好 27歳
夕霧 15歳 柏木 20歳
―― 六条院の春 ――
三月になったの。六条院の春の町は花が咲き乱れ、鳥がさえずり、春爛漫なのね。部屋の奥からでは春の庭を楽しめないだろうと源氏は舟を造らせて庭の池に浮かべて、女房達をそれに乗せて
ちょうど秋の町に秋好中宮が里帰りしていたので、以前春と秋のどっちが優れているか和歌のやりとりをしたことを思い出して(episode21 小さな恋の物語 乙女)、源氏は中宮にも春の町の見事さを見せたいって思うんだけど、中宮という高貴な身分なので同じお屋敷の中なんだけど気軽に春の町に遊びに来るわけにはいかないのね。そこで中宮さまの招待はあきらめて中宮さまの女房たちを春の町の庭に招いて春の宴会を満喫したみたいね。
中宮さまの女房たちを船に乗せて春の池をめぐるの。舟は
夕暮れには舞や音楽も披露されるの。夜には篝火をたいて楽器の得意な人たちを選抜してみんなで合奏して楽しむのね。
宴会に参加した貴族たちの目当ては玉鬘なのね。源氏の娘ならどんなに美人だろうとみんな興味深々なのよ。
源氏の異母弟の
それから玉鬘の実の父の内大臣(頭中将)の息子の柏木も友人の夕霧経由で恋文を贈ってきたの。柏木は玉鬘が自分の異母姉だなんてこと知らないから無理もないことだったんだけれどね。
玉鬘はいつになったら源氏が実の父の内大臣に自分のことを話してくれるのか気にしているんだけれど、どうもすぐには源氏は話をしてくれそうにはないみたい。でも玉鬘自身ではどうにもできなくて思い悩んでいたみたいね。
―― 春と秋の対決、再び ――
春の宴会の次は秋好中宮が秋の町で春の法事をしたの。この日はみんなが秋の町の御殿に参上したのね。紫の上は仏様のお供えにって春の町の花を届けさせたの。使者の童女たちの衣装も凝っているのよ。鳥の装束の童女たちは桜を挿した銀色の花瓶を持ち、蝶の装束の童女たちは山吹の房をたらした金の花瓶を持っているの。春の町の池から舟に乗って秋の町に運ぶ風景もまた素晴らしかったみたいね。紫の上が詠んだ歌は夕霧が使者として中宮さまにお届けしたの。
~ 花園の
(下草に隠れて秋をまっている松虫は春の胡蝶もつまらないって思うのかしら?)
中宮さまは以前贈った秋自慢の紅葉の和歌の仕返しだわって微笑まれたみたい。中宮さまの女房たちも昨日素晴らしい春の宴会に招待されているから誰も春のことを悪く言えなくなっちゃったみたい。
そんな風に楽しく季節を愛でながら、秋好中宮と紫の上は仲良くしていたみたいね。
それから玉鬘も紫の上に手紙を書くようになっていいお付き合いをしているの。母親代わりの花散里にも可愛がられ、紫の上からも好感を持たれていたみたいね。
―― 玉鬘を取り巻く人たち ――
誰からも好意を持たれる玉鬘のことを源氏はどうしたものかと悩んでいるの。父親になりきりたいとも思うけれど、本当の父親の内大臣にも知らせないとなぁとも考えるの。
夕霧は玉鬘のことを実の姉だと思っているから御簾の近くまで来て話すこともあるらしいの。玉鬘は直接話をしないといけないのが恥ずかしかったんだけど、夕霧は失礼な態度をとったりしないので仲の良い姉弟の関係だったみたい。
玉鬘宛ての恋文がたくさんやってきて源氏はニンマリするの。差出人を見てシカトしてもいい文と返事をしたほうがいい文に分けて、源氏が玉鬘にふさわしいと認めた人には返事を書かせたの。
蛍兵部卿宮や柏木からの文もあったし、堅苦しい印象の髭黒の右大将からの恋文もあったみたい。源氏は蛍兵部卿宮は奥さんを亡くして独身ではあるけれど、他にも通っている女性がいて女好きなところが困るとか、右大将には長年連れ添った年上の夫人がいるからそこにあなたが加わっても苦労しそうだとかあれこれ婚約者候補を批評するの。あなたが不満足に思うような結婚はさせたくないんだよって話したみたい。
女房の右近にもいろいろと注意をするの。
「返事をしないで相手を焦らしてもよけい熱心になるだけだからあたりさわりのない季節の挨拶の手紙には返事をするといいよ」
「とはいっても興味本位のヤツには返事しなくていいからね」
「蛍兵部卿宮や髭黒右大将より身分の低い人たちは相手がどのくらい熱心に想っているかどうかで返事を考えるように」
源氏は現時点では玉鬘を内大臣に引き合わせて親子の対面をさせるつもりはなかったの。内大臣には多くの子どもがいるので、玉鬘が結婚して一人前になってから紹介した方が内大臣の一族の中で立ち位置を作りやすいんじゃないかと考えたらしいの。
そのためにもより良い結婚相手を見つけてやりたいと思うんだけど、蛍兵部卿宮は浮いた話が多く、髭黒の右大将は長年連れ添っている妻がいるのでそちらから恨まれそうだし、身分的には釣り合う人たちにも短所もあって源氏は悩んでいたのね。
それに最初は田舎育ちの姫君という印象だったんだけれど、六条院の生活で玉鬘が随分と洗練されて綺麗になってくるの。紫の上とのお付き合いなどで内面も成長し、外見もとっても美しくなってきたから他所の男と結婚させるのはもったいないなぁなんて源氏は思い始めるの。
―― 源氏の本心? ――
源氏は玉鬘が本当に可愛らしいと紫の上に話すの。
「不思議なほど魅力的なんだよ。母親はね、儚い人だったけど、彼女は美しいし頭もいいし欠点がないんだよ」
なんて風にね。紫の上はまた夫の源氏が娘以上の気持ちを持っちゃうんじゃないの? って心配しはじめたみたい。
「あなたをお父さまとして信頼しているのにお気の毒ね」
って紫の上は言うの。
「信頼されてていいんじゃないの?」
と源氏が言うと、
「私もあなたのことを親心と信じてた頃があったわ」
と自分も最初は娘のように妹のように育てられ後に妻になったことをさらりと言ったの。
イタイところをつかれた源氏はそこでこの話を切り上げちゃったみたいね。
けれども、目の前の美しい玉鬘を見ていると湧き上がってくる恋愛感情を抑えることができなくなってくるの。しょっちゅう玉鬘のところに逢いに行っちゃうの。
「最初はそんなに思わなかったけれど、キミはお母さん(夕顔)によく似てる。お母さんだと思っちゃうときがあるよ。彼女を思い出しちゃうね」
そんなことを言いながら涙ぐんでこんな歌を詠んだの。
~ 橘の かをりし袖に よそふれば 変はれる身とも 思ほえぬかな ~
(昔愛したキミのお母さんと比べてもキミがお母さんとは別の人とは思えないんだ)
また恋しい人(夕顔)に会えたみたいで嬉しいんだ。キミも俺のことを好きになって欲しいなんて言って手を握るの。親子の愛情にもう一つの愛情が加わるだけだよ、なんて口説くんだけど、玉鬘はびっくりしちゃって動揺するのよね。
夜になっても源氏は帰ろうとしないの。一緒に寝室に入るんだけど、玉鬘は本当の親子じゃないからこんなことをされるんだわって涙を流すのよ。源氏も添い寝だけでそれ以上はなにもしないから人には言わないで秘密にしておきなさいって言ったんですって。
源氏が帰った朝、玉鬘は泣いて部屋に籠っているの。源氏からはまるで恋人同士のデートのあとのような歌(
源氏は一旦恋心を口にしてしまったので、このあとも何度も玉鬘を口説いてきたの。でも周囲の人は気づいていなくて父親と娘の親子だと思っているみたい。こんな風にアプローチが続いたらわたしはどうやってかわせばいいのかわからないし、逃げ場がないわ、って玉鬘は悩むばっかりだったみたいね。
◇若い頃の恋人だった夕顔の忘れ形見の玉鬘。父親代わりにと引き取ったはずで結婚相手を探そうともしているのに、自分まで玉鬘に恋心を打ち明けてしまいました。
玉鬘の戸惑いも当然ですよね。
~ 橘の かをりし袖に よそふれば 変はれる身とも 思ほえぬかな ~
源氏大臣が玉鬘に恋心を打ち明けた歌
第二十四帖 胡蝶
☆☆☆
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