episode16 逢えなくても好き     関屋


 ◇関屋ざっくりあらすじ

 若い頃一度だけ一緒に過ごした空蝉うつせみのお話です。(以前の空蝉のお話→episode3 つかみどころのないカノジョ 空蝉)

 石山寺で偶然空蝉もお参りに来ていることを知る源氏が彼女に手紙を書きます。お互いもう会うことはなかったのですが、空蝉も源氏のことをなつかしく想っているようです。

 その後夫に先立たれ空蝉は出家して尼になります。



【超訳】関屋

 源氏 29歳 


 ―― 空蝉京に帰る ――

 夫の赴任地に一緒に行っていた空蝉はまた人事異動があって常陸国(茨城県)に来ていたの。空蝉は源氏が都を追われた噂を聞いていたけれど、手紙を出すわけにもいかずただ淡々と毎日を暮らしていたの。


 源氏が京に戻ってまた充実した生活を送れるようになり石山寺(滋賀県大津市)にお参りに行くのね。そこへ偶然常陸国から戻ってくる空蝉と逢坂の関(大津市の関所)ですれ違うの。

 空蝉たちは遠慮して源氏の大行列をやり過ごそうとするんだけれど、源氏も空蝉のことを思い出して、以前ふたりのやりとりを手伝ってもらった空蝉の弟(小君、現在は右衛門佐うえもんのすけ)に声をかけるの。

「本当ならキミに直接会って話がしたいけれど、人目が多いからそうもいかないな」

 源氏の気持ちを弟から聞いた空蝉も昔のことを思い返して胸キュンしちゃったみたいね。


 ~ 行くとと せきとめがたき 涙をや 絶えぬ清水と 人はみるらん ~

(往来の多い逢坂の関で涙が止まらないけれど、(あなたを想っている涙だなんて)誰にもわからないわね)



 ―― 空蝉の出家 ――

 源氏が石山寺から京に戻る日に右衛門佐が源氏のところに来たの。右衛門佐は源氏がバッシングを受けてたころに世間体を気にして源氏側につかないでお姉さんたちと一緒に常陸国に行ってしまったことを悔やんでいたの。

 そんな右衛門佐のことを源氏は責めたりもしないでもう一度お姉さんに手紙を渡してほしいと頼むの。


~ わくらはに 行き逢ふみちを 頼みしも なほかひなしや 塩ならぬ梅 ~

(逢坂の関で偶然キミに逢えたらどんなにいいかって思うけど、やっぱ会えないよね)


「キミのダンナが羨ましくて忌々しいよ」


 源氏の歌と手紙はこうだったの。長い間連絡もとらなかったけれどずっと心ではあなたのことを想っていたなんて書いてある手紙を見て空蝉はもう年もとっちゃったし恥ずかしいわって思うんだけれど、やっぱり心はときめいて返事を書くの。


~ 逢坂の 関やいかなる 関なれば しげきなげきの 中を分くらん ~

(逢坂の関なんて名前のここだけれど、あなたとは会えなくて嘆いているの)


 源氏にとって空蝉は自分の気持ちを受け入れてもらえず恨めしくもあったし、それでもやっぱり恋しくて愛しく想っていたから、ときどきは手紙を書いたみたいね。


 そんな頃に空蝉の夫の常陸の介が亡くなるの。最初のうちは常陸の介の親類も面倒を見てくれていたんだけど、しばらくすると常陸の介の息子の河内の守(以前の紀伊の守)が下心まる出しで空蝉に言い寄ってくるの。常陸の介とは年の差婚だったから息子と空蝉は同世代なのね。(空蝉は常陸の介の後妻さんだから河内の守とは血は繋がっていない)

 空蝉は河内の守との結婚を嫌がって出家して尼になってしまったの。

 


 ◇第二帖で登場した「つかみどころのないカノジョ」の空蝉さんとのその後の物語ですね。再会はしないけれど、いい想い出としてお互いのことを想っているという感じでしょうか。その後尼になった空蝉は源氏の二条院の東の院で暮らすようになります。初恋ではないけれど若い頃の瑞々しく青い恋の想い出といったところ? かしらね。






 ~ 行くとと せきとめがたき 涙をや 絶えぬ清水と 人はみるらん ~

 空蝉がひとりつぶやいた歌



 第一六帖 関屋



☆☆☆

【別冊】源氏物語のご案内

関連するトピックスがあります。よかったらご覧になってくださいね。


topics9 ボーダーラインはどこかしら?

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881765812/episodes/1177354054883444212

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