episode17 世界にひとつだけの    絵合

 ◇絵合えあわせざっくりあらすじ

 六条御息所の娘の秋好が冷泉帝に入内じゅだいすることになります。親代わりの源氏が面倒を見ています。冷泉帝が好きな絵を集めてお披露目しようという企画が持ち上がり、源氏側と権中納言側とでの絵の対決をすることになります。



【超訳】絵合

 源氏 31歳 紫の上 23歳

 女院(藤壺の宮) 36歳 冷泉帝 13歳

 秋好(梅壺女御) 22歳 

 新弘徽殿女御 14歳


 ―― 秋好の入内 ――

 秋好の入内じゅだい(帝へのお嫁入り)が決まったの。ずっと前から気になっていた朱雀院はとても残念がったんだけれど、そこは優しいからお祝いの品を秋好に届けるの。源氏もお兄さんの気持ちを知っていたのに冷泉帝への入内を決めたので、朱雀院に悪い気がして手紙の返事を秋好に書かせたの。

 秋好のお母さんは六条御息所だったから、お母さんの頃から仕えてくれている優秀な女房も多いのね。徐々に入内の準備が整っていくの。

「御息所さまが生きていたらどんなにこのことを喜んでくれただろうな」

 源氏は元恋人だった六条御息所のことを思い出しているみたいね。

 入内の儀式でも朱雀院に気を遣って源氏は出しゃばらず親代わりとしてではなく、いちゲストとして参列したみたい。秋好は後宮で梅壺というお部屋にすむことになり梅壺女御うめつぼのにょうごと呼ばれることになるの。


 冷泉帝のお母さんである女院(藤壺の宮)も

「今度の女御さまは大人でいらっしゃるからしっかりなさってね」

 なんてお話したらしいわ。でも梅壺女御は冷泉帝が心配した近づきがたい大人な女の人というわけではなかったの。年は上だけれど小柄で優しい人だったの。けれど後宮にはほかにも女御さまがいて冷泉帝は歳の近い新弘徽殿女御しんこきでんのにょうごと仲良く遊んでいたの。


 新弘徽殿女御のお父さんは権中納言ごんのちゅうなごん(元頭中将)で梅壺女御の親代わりが源氏でいわば政界の2大勢力が後宮でもお妃(中宮)争いをすることになったの。そこにはもうひとり王女御おうのにょうごがいるんだけれど、お父さんは紫の上のお父さんの兵部卿宮なのよ。けれど兵部卿宮は源氏とは仲が悪いし(源氏が須磨で謹慎するときに紫の上をフォローせず距離を置いた)、後宮でのポジションもよくなかったわね。



 ―― 源氏VS権中納言頭中将 ――

 冷泉帝はとても絵が好きだったの。見るのも好きだったし、ご自分でも描いたみたい。梅壺女御も絵がとても上手でふたりでいるときはいつも絵を描いているんですって。趣味が同じだからか冷泉帝もよく梅壺に通うようになるの。

 そんな梅壺に負けていられないと権中納言も画家を呼んでは絵を描かせて弘徽殿にも通ってきてくれるようにムキになるの。


 子供っぽい権中納言のやり方に源氏は呆れるんだけれど、そうは言いながらも冷泉帝に見せてあげようと持っているものから絵画を紫の上と一緒に選ぶの。その中にひとつ源氏が描いた絵があったの。須磨で謹慎しているときにそこの風景を描いたものらしいの。とても上手で須磨の寂しい波打ち際の風景に思わず涙を流すふたり。


 ~ ひとりゐて 嘆きしよりは 海人あまのすむ かたをかくてぞ 見るべかりける ~

(ひとりで京で泣いているよりはこの須磨の海人の住むあたりを絵でもいいから見たかったわ)


 紫の上はそう詠って涙ぐむの。


~ うきめ見し そのをりよりは 今日はまた 過ぎにし方に 帰る涙か ~

(辛い思いをしたあの頃よりも、今日の方があの頃を思い出して泣けてくるね)


 源氏は須磨と明石の絵を選びながら、明石の君はどうしてるだろうって恋しい気持ちになったみたいよ。



―― コレクション対決 ――

 権中納言は現代風の、源氏は古風アンティークの絵を揃えていて宮中でも話題になるの。

 そんな噂は女院のところにも届いていて、女房たちを二組にわけて絵の評論合戦をする遊びをしたの。それを聞いた源氏は冷泉帝の前でも同じことをして勝負をしようと思いつくの。


 いよいよコレクション対決の日、源氏の梅壺女御チームと権中納言の新弘徽殿女御チームに分かれるの。梅壺チームは赤を主体の衣装で、弘徽殿チームは青を主体にした衣装で揃えたの。審判は源氏の異母弟の蛍兵部卿宮がすることになったの。それぞれの女房が自分のチームの絵のいいところを言い合うの。ディベート合戦ね。お互いの絵がそれぞれに見事でなかなか勝敗がつかないの。そんなときは御簾の奥からご覧になっている女院(藤壺の宮)さまがさりげなく梅壺チームの見方をするの。

 そうしてすっかり夜になってしまってお互い最後の絵を見せるの。梅壺チームはあの源氏の描いた須磨の絵を出したの。今は政界でも出世して成功している源氏だけれどこんな寂しいところで苦労していた時期もあったんだなってみんなが涙を流して感動したの。結局この絵で勝敗がついたの。後宮の女御さまたちの争いっていうとドロドロしたものになりがちだけれど、この素敵な絵の対決はしばらく伝説のように語られたんですって。勝ちの決め手になった須磨の絵は源氏が女院に献上したのよね。


 絵の勝負には負けた権中納言は冷泉帝の中宮の座も梅壺にとられるんじゃないかって焦るの。でも普段は冷泉帝と娘の新弘徽殿女御は仲良しだし、まぁ大丈夫かって安心もするの。

 かたや源氏は自分の成功を喜びながらもそろそろ出家して仏道修行でもしないとな、なんて思い始めて郊外に御堂みどうを造り始めるの。でも子供達の行く末も気にはなるし、すぐに出家、というわけにはいかないんだけれどね。



 ◇絵のコレクション対決と言いながら、源氏VS権中納言という関係がはっきりしてきます。最初は親友でライバルだったんだけれど、年をとって重要な役職にお互いつくと、より上を目指すようになるのかな。それは自分の役職もそうだし、娘のポジションもそうなるのかな。

 どちらも十分に出世しているし、周りの評価も高いんですけれどね。ナンバーワンがいいのかな。やっぱり。


 ~ ひとりゐて 嘆きしよりは 海人あまのすむ かたをかくてぞ 見るべかりける ~

 紫の上が源氏大臣に贈った歌



 第十七帖 絵合

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る