episode51 狂い始める恋情      浮舟

◇浮舟ざっくりあらすじ

 薫に見いだされた浮舟は薫によって宇治に匿まわれるようになります。匂宮も以前自宅でちらっと見かけた姫のことが忘れられず探し出そうと必死です。そして探していた姫は薫が宇治に匿っている姫だとつきとめ、無理矢理会いに行きます。

 薫と匂宮の板挟みになってしまった浮舟はこれからどうしたらいいのか悩むことになります。



【超訳】浮舟  宇治十帖

薫 27歳 匂宮 28歳

中の君27歳 浮舟22歳



―― 匂宮の疑念 ――

 匂宮は浮舟のことが忘れられなくて、中の君が彼女を隠しているんじゃないかって疑うの。中の君は薫が正式に結婚というカタチはとっていないけれど恋人として宇治に彼女を隠していることを話せないし、仮に話したとしたら女好きの匂宮が絶対に放っておかないだろうし、異母妹浮舟とダンナの寵を争うようなこともしたくないので黙っているしかなかったのね。

 薫の方は浮舟を宇治に無事に匿ったみたい。とはいっても薫も昇進して行動が人目に付きやすいからそんなに宇治には通えないのね。それに世間に急に妻として浮舟を公表するんじゃなくて、最初は恋人としてこっそり宇治に隠しておいて、そのうちに都に呼んであげようと考えて新居の建設を始めたの。恋愛に関してはのんびり構えている薫だったのよね。


 中の君に対しても相変わらず好意を寄せている薫なんだけど、中の君はやましくないのに匂宮ダンナから薫との仲を疑われるから薫のことを警戒しているみたい。

 匂宮は浮気っぽい性格は治っていないけれど、中の君が産んだ若君が可愛らしく成長しているし、他の女性からは子供が産まれないので、中の君のことをとても大切にして匂宮なりに愛しているみたい。だから中の君も前(匂宮が夕霧の娘と結婚した頃)よりは落ち込むこともなく過ごしているようね。


 年が明けて匂宮邸(二条院)で小さな女の子が中の君のところに文を届けるの。匂宮が誰からの文か聞くと、女房宛てで宇治からの手紙だって言うのね。

 ピンと来た匂宮がその文を読むと、直接的ではないんだけどどうやら浮舟のことが書いてあるみたいなの。


 すぐに匂宮は薫に繋がりがある部下を呼び出して、薫は宇治に女性を住まわせているっていう情報を聞き出すの。

 その女性が自分がここで見かけたあの姫なのか、どうして中の君がその姫と親しいのか、自分が知らないところで薫と中の君がその姫のことを隠しているのか、何かあるんじゃないのかって匂宮はいろいろと疑っていくうちに薫への嫉妬に変わっていったみたいなのよね。


―― 匂宮の大胆行動 ――

 匂宮は薫の部下に薫と鉢合わせしない日に宇治に連れて行くように命令するの。薫は仲の良い友人で中の君と結婚できるきっかけを作ってもらった恩人なのに、今はその薫を裏切るために宇治に向かっているんだな、って匂宮は少し罪の意識を感じるみたい。夜に到着して屋敷の陰から覗き見するとやっぱりあの時の姫だったの。


 みんなが寝静まったころに匂宮は薫の声マネをして屋敷に入っていくの。来る途中でトラブルに遭ってひどい恰好だから灯りはつけないように、なんて女房をダマして浮舟の部屋まで行ってしまうの。浮舟はもちろん薫じゃないって気づくんだけれど、力ずくで匂宮の思うようにされてしまうの。浮舟は相手が匂宮だってわかると中の君に申し訳なくて泣いてしまうの。匂宮もこれから簡単には逢いに来られないだろうって泣くんですって。


 朝になり、薫だと思っていた人が実は匂宮だってわかった女房はビックリ仰天。おまけに匂宮は浮舟に夢中で帰ろうとしないの。右近という名前の女房は他の女房たちは薫が来たと思っているから、匂宮の存在を知られないように浮舟は物忌みだと嘘をついて誰も近づけないで匿うことにするの。それに実は今日は浮舟はお寺参りにでかける日だったんだけれど、その予定もキャンセルすることになっちゃったわね。

「観音様、どうか今日を無事にクリアさせてくださいませ」

 ひとりパニックの女房の右近は手を合わせて拝むの。


「一緒にいられないなら死んでしまいそうだ」

 そんな風に感情をむき出しにして愛を告げて来る匂宮がいつも冷静沈着な薫と違って浮舟には新鮮なのよね。

 けれどもこの匂宮とのことがバレてしまったらお世話になっている中の君さまお姉さんがどんなに不快に思われるかと思うと浮舟は落ち込むの。

「ね、ところでキミはどこの誰なの?」

 浮舟の素性を知らない匂宮が尋ねるんだけど、浮舟は(中の君奥さまの異母妹だから)頑として言おうとしないの。他の話には愛らしく受け答えをする浮舟に匂宮はめちゃめちゃカワイイと惚れこんでしまうの。


 匂宮と浮舟は一日中一緒に過ごすの。「オレがいないときはこれを眺めてて」と絵を描いてあげたりもするの。どんなに眺めていても見飽きないなぁと匂宮は思うの。欠点が見当たらなくて愛嬌のある美しさなんですって。

 そうは言っても中の君には勝てないかなぁとも思うの。それに正室の六の君(夕霧の娘)の華やかさにも負けるなぁとも思うんだけど、今は気持ちが盛り上がっているから「すっげぇ、いいカンジ!」「マジ可愛いぜ!」って思っているらしいわ。

 浮舟は薫ほど高貴で美しい男性は他にいないわって思っていたんだけれど、匂宮の華やかさやストレートな愛情に触れて心が揺れてしまうの。


~ 長き世を たのめてもなほ 悲しきは ただ明日知らぬ 命なりけり ~

(これからもずっとって約束するけれど明日からどうなるのか不安なんだ)


 キミのことを好きになりすぎて不安でたまらないんだって匂宮が歌を詠んでから筆を浮舟に渡して返歌を求めるの。


~ 心をば 歎かざらまし 命のみ 定めなき世と 思はましかば ~

(寿命だけじゃなくて心だっていつどうなっちゃうかわからないわ……)


 匂宮には浮舟が可愛らしく拗ねているように見えるのね。

「へぇ、誰に心変わりしちゃうの? 言ってみ?」

 名前は出さないけれど暗に薫のことを匂わせるのね。もちろん浮舟は答えに困っているんだけど、そんな姿も可愛らしくて仕方がない匂宮なの。


 夜になって従者が匂宮の所在をごまかすのも限界だって言ってきて、匂宮は名残惜しいけれど都に戻らなくてはならないの。


~ 世に知らず 惑ふべきかな 先に立つ 涙も道を かきくらしつつ ~

(涙で道が暗くなってこれからどうしたらいいかわからないよ)


 帰り際も浮舟と離れることができない匂宮の歌なの。


~ 涙をも ほどなき袖に せきかねて いかに別れを とどむべき身ぞ ~

(小さい袖ではぬぐいきれない涙だわ。どうしたらお別れを止められるかしら)


 浮舟も別れるのは悲しいみたいね。


 昔は中の君に逢うために必死で通った都と宇治を結ぶ道だったのに今は別の女子と恋する道になったなぁなんて、自分と宇治との不思議な因縁だなと匂宮は感慨にふけったの。


―― 薫、浮舟 そして匂宮 ――

 二条院に戻っても匂宮は中の君を見ると浮舟のことを思い出してしまうの。その浮舟が二条院にいたことを中の君は匂宮に隠していたわよね。

「俺が死んだら心変わりするんだろ? そしたら薫と結婚できるもんな?」

 薫への嫉妬もあって中の君に恨みがましいことをついつい言っちゃうの。


 体調不良と偽って出仕出勤しないでいると、薫がお見舞いにやってくるの。落ち着いた態度の薫を見ていると、浮舟はこの薫と自分を較べてどう思っているんだろうって不安になるの。


 月日は経つけれど、匂宮は身分柄気軽に宇治に出かけられなくてストレスをためているの。一方の薫は久しぶりに宇治に出かけるの。浮舟は匂宮とあんなことになってしまって薫に会うのが恐ろしいの。匂宮を想い出したりもしているのに薫に対して素知らぬふりをしなきゃならないのもなんて情けないのかしらって思っているの。それとは逆に今薫とこうして会っていることを匂宮が知ったらきっと私を憎んでしまうわなんて心配もしているの。


 薫は長い間来られなかったこともクドクド言い訳はしないの。「恋しかった」「逢えなくて悲しかった」なんてことも直に言ったりはしないけれど、中々逢いに来られない辛さは感じられてそれは浮舟にとって誇張表現オーバーリアクションよりずっと心惹かれる様子なの。

 でも自分と匂宮とのことを薫が知ったらどんなに嘆いて自分を軽蔑するんだろうって浮舟は怯えるの。


 自分が知らない間に浮舟と匂宮が関係を持ったなんて夢にも思わない薫はしばらく見ないあいだに浮舟がずいぶんとオトナの女性になったなぁなんて見当違いな感想を持っちゃうのよね。


「あなたが住む家もできてきたよ。春には引っ越そうね」

 三条宮薫の本宅からも近いから毎日でも逢えるよと薫は言うの。

(匂宮さまも隠れ家を用意するって昨日の手紙に書いてあったわ……)

 浮舟は匂宮からの手紙を思い出すの。そうはいっても薫のことを裏切って匂宮のところになんて行くなんてそんなことできないわって思うんだけど、そう思えば思うほど彼の顔が目に浮かぶみたいなの。


~ 宇治橋の 長き契りは 朽ちせじを あやぶむ方を 心騒ぐな ~

(宇治橋のように末永い約束は朽ちたりしないから心配することはないんだよ)


 元々大君によく似ていた浮舟だけれど、あか抜けて随分美しくなったなぁなんて薫は思っているみたい。


~ 絶え間のみ 世には危ふき 宇治橋を 朽ちせぬものと なほたのめとや ~

(会えないときが心配なのにどうして安心なんてしていられるの?)


 浮舟は匂宮の男らしい強さや優しさに惹かれながらも、誠実で落ち着いていて雅な薫を拒絶することもできないの。そもそも最初に薫が夫になっているんだから、拒まないといけないのは匂宮の方なのに浮舟にはそれができないのよね。


―― 密会、恋の罪 ――

 2月になって宮中で詩会があったの。薫が古今集の和歌を使って宇治の橋姫のことを詠むから匂宮は「あの子のことを詠ってんのかよ」って思うの。どうやら薫も遊びではないらしい。俺の想っている同じ彼女オンナのことを薫も想っているのかって匂宮は焦るの。そして雪の降る中、無理をして匂宮は宇治に向かうの。

 大雪の山道を宇治まで逢いに来てくれた匂宮に浮舟は心を動かされるの。女房の右近はまた薫がやってきたフリを装って匂宮を手引きするの。右近は今回はひとりではごまかしきれないので、侍従という女房にだけこのことを打ち明けて協力してもらうの。匂宮は人目につかないようにって川の対岸に家を用意していて、夜になってからそこに浮舟を連れて行こうとするの。侍従が付き添うことになって匂宮の従者が舟を漕ぐの。舟に乗るときも下ろすときも匂宮が浮舟を抱きかかえてあげるの。


~ 年経ふとも 変はらんものか 橘の 小嶋の崎に 契るこころは ~

(常緑の橘に誓うよ。オレの想いは千年経っても変わらないよ)


 宇治川の小島にある橘の木になぞらえて匂宮は愛の歌を詠うの。


~ 橘の 小嶋は色も 変はらじを この浮舟ぞ 行くへ知られぬ ~

(橘の色は変わらなくても私がどうなるのかはわからないの)


 ふたりは小さな家で2日間もふたりきりで過ごすの。見苦しいほど戯れたって書いてあるわよ。でも匂宮は彼女は薫ともこんな風に付き合っているのかってやきもちをやくの。

「オレとこんなことしてんのにまだ薫のことが気になんの?」

 匂宮は思いつく限りの口説き文句で浮舟を惑わして、彼女のカラダも心も奪いつくそうとするの。

「薫とは会うなよ? 寝んなよ?」

 できもしないことを要求されて浮舟は答えることができないの。


 帰りも匂宮は浮舟を抱いて舟に乗せてこんなことを言ったの。

「薫はこんなことしてくれないでしょ。オレがどんなにキミを大事に想っているかわかってくれるよね?」

 浮舟は素直に頷くんですって。


―― 三角関係 ――

~ ながめやる そなたの雲も 見えぬまで 空さへくるる 頃のわびしさ ~

(キミに逢えなくて真っ暗な空みたいでツライよ)


 こんな情熱的な歌を匂宮から贈られて浮舟も同じ想いを抱いてしまうの。浮舟は薫と匂宮の板挟みになってしまい、どちらの気持ちに応えればいいのか悩んでしまうの。

 もし薫に匂宮のことがバレたらどんなに軽蔑されるんだろう。考えただけでも恐ろしい。かといって匂宮についていっても浮気性なカレにいつまで愛してもらえるか保証はないし、匂宮の妻の中の君(自分の異母姉)にも申し訳ない。どちらも選べない状況になっているのよね。そんなときに薫からも手紙が届くの。


~ ながめやる をちの里人 いかならん はれぬながめに かきくらすころ ~

(長雨が続くけれどどうしていますか? いつも以上にあなたが恋しいよ)


 立て続けにふたりの男子から恋歌ラブレターを贈られて浮舟は自分がとてもふしだらに思えてしまうの。


~ かき暮らし 晴れせぬ峰の 雨雲に 浮きて世をふる 身をもなさばや ~

(真っ暗な空の雨雲みたいに空に消えていく煙になってしまいたいわ)


 浮舟からの返歌を受け取った匂宮は彼女も自分を想っていてくれているって声をあげて泣くんですって。


~ つれづれと 身を知る雨の をやまねば 袖さへいとど かさまさりて ~

(降り続く雨のように寂しくて泣いています。涙をぬぐう私の袖がもっと濡れてしまいます)

 

 こっちが薫宛ての返歌なの。かわいそうに、寂しい想いをさせているなって薫は愛おしく思うの。


 薫は浮舟を4月に都に迎えることにするの。匂宮も都の目立たないところに隠れ家を用意して浮舟を匿う予定だって彼女に伝えるの。どこに隠れても見つけ出して迎えに行くと書いてある手紙が送られてきて、浮舟はもうどうしたらいいかわからないの。

 お母さんに相談しようかとも思ったんだけど、実家では娘(浮舟の異父妹)のお産で忙しく、お母さんは薫との結婚を喜んでいるので現在の三角関係の話はとてもできないの。


「二条院で匂宮様とニアミスしたって聞いたときは生きた心地がしなかったわ。万が一だけれど娘が匂宮様とマチガイを起こしたら中の君様に申し訳がたたないわ。娘とは親子の縁を切るしかないわね」

 お母さんがあのとき匂宮のちょっかいをを阻止した浮舟の乳母にそんな話をしているのを浮舟は聞いてしまうの。


 はしたない三角関係が世間に知られて物笑いにされたらお母さんにも迷惑をかけてしまう。こうなったらもう死ぬしかないんだわ。浮舟はそんなことを考え始めるの。


―― 追い詰められた3人 ――

 浮舟のところに薫からも匂宮からも手紙が届くの。

「具合が悪いって聞いたけれど大丈夫?」これは薫の手紙。

「まだ迷ってんの? オレんとこに来いよ」こっちは匂宮ね。


 このとき薫の手紙を届けた男が偶然匂宮の手紙を届ける男を目撃するの。そのことを薫に報告するの。


 匂宮と浮舟が付き合っている? まさかそんな。いやありえなくはない。むしろ大いにありえる。あの女好きで手が早い彼ならありえる。ありすぎる。宇治の屋敷に匿って安心していた自分がバカだった。中の君とうまくいくようにサポートしてやったのにそっちはその恩を仇で返す気かよって薫は悔しく思うの。


「こっちは中の君のことが気になっていても不貞は犯していないのに」

 友人である匂宮にやましい気持ちを持ちたくないから中の君のことも我慢していたのに。僕は馬鹿みたいじゃないか。

 ここんとこ匂宮は病気がちだったぞ? でも時々行方不明になってみんなが探していた……。

 そういえば最近浮舟の様子もヘンだった。そういうことかよ。考えれば考えるほどすべてのつじつまが合ってくるの。


 薫は浮舟に手紙を送るの。


~ 波こゆる 頃とも知らず 末の松 まつらむとのみ 思ひけるかな ~

(あなたが浮気してるだなんて思いもよらなかったよ。僕のことを待ってくれていると信じてたのに)


 浮舟は「このお手紙は宛先違いです」なんて薫の追及をかわそうとするんだけれど、とうとう匂宮のことがバレてしまったと恐れてしまうの。


「より心惹かれる方をお選びになればいいのですよ」

 事情を知っている女房の右近と侍従が浮舟にそうアドバイスしてあげるの。

 どうしても薫さまじゃなくてもいいんですよ、と浮舟が匂宮に傾いているのを見透かしたみたいに話してくる女房たちなんだけれど、浮舟自体は本当にどちらも選ぶことができないの。

「もう死んでしまいたいわ」

 突っ伏して泣いてしまうの。


 すると次は手紙ではなくて武士が宇治にやってくるの。薫の命令で屋敷の警護をするらしいの。

 匂宮からも絶対に連れ出すから待ってろという手紙が届くの。浮舟はその手紙を顔に押し当てて声を上げて泣くの。もうどうしたらいいか混乱してしまって返事も書けないの。すると匂宮は薫に妨害されて返事が書けないと勘違いして宇治に向かうことにするの。

 けれども武士たちが警護していて匂宮が屋敷に近づくことはできないの。


~ いずくにか 身をば捨てんと しら知ら・白雲の かからぬ山も なく無く・泣く泣くぞ行く ~

(どこに行ったらいいんだよ。雲がかった山を泣いて帰んのかよ)


 匂宮は悲しみの中でひとりそんな歌を詠うの。結局浮舟には会えないまま匂宮は心引き裂かれる想いで都に戻るの。


 浮舟も悲しみに暮れるの。前に匂宮が描いてくれた絵を眺めながら彼の美しい顔が思い浮かぶの。せっかく会いにきてくれたのに会えなかったことが悲しくてならないの。でも薫もどんなに嘆くかと思うと辛いのよね。薫から匂宮に心変わりしたって薫が想像されるかと思うと恥ずかしくてならないの。

 どちらを選んでも選ばなかった人を傷つける。自分が死んでしまうのが一番いいわ。激しい音を立てて流れる宇治川。もうこの川に身を投げて消えてしまうしか方法を思いつかないようなの。


~ 歎きわび 身をば捨すとも 亡きかげに 浮き名流さん ことをこそ思へ ~

(嘆き嘆いて身を捨てても死んだあとにどんな嫌なウワサが流れるのか心配だわ)


 相変わらず激しい恋文を送ってくる匂宮にも浮舟は返歌をしたの。


~ からをだに 憂き世の中に とどめずば いづくをはかと 君も恨みん ~

(遺体も見つからなければあなたは何に向かって恨むのかしら)


 浮舟は薫にも手紙(遺書)を書こうと思ったんだけれど、ふたりに手紙を出すなんてはしたないし、匂宮と薫は親友同士だから(ふたりに遺書を送ったなんて)お互いがあとで知るのもいけないと思いとどまるの。


 そんなときにお母さんからも手紙が来るの。あなたの不吉な夢を見て心配だからお寺に祈祷を頼んでいるって書いてあるの。

「あなたもそちらで祈祷をお願いしなさいね」

 手紙と一緒にお寺への納めるものや依頼状まで添えてあったから、浮舟はお母さんの思いやりにまた涙してしまうの。


~ のちにまた 逢ひみんことを 思はなん このこの・子のよの夢に 心まどはで ~

(来世でまたお会いしましょう。この世の夢に惑わされないでね)

 

 浮舟がお母さんに返事を書くの。


~ 鐘の音の 絶ゆる響きに 音を添へて わが世尽きぬと 君に伝えよ ~

(鐘の音の響きに泣き声も添えて私が死んだと母に伝えてください)


 これが浮舟が詠んだ辞世の歌のようね……。



◇薫と匂宮から愛を告げられて選ぶことができず浮舟の心が引き裂かれるようですね。ふたりのうちのどちらかを選ぶことができずに浮舟は最悪の決断をしてしまうのでしょうか。


~ 波こゆる 頃とも知らず 末の松 まつらむとのみ 思ひけるかな ~

薫が浮舟の浮気を知って詠んだ歌



第五十一帖 浮舟


☆☆☆

【別冊】源氏物語のご案内

関連するトピックスがあります。よかったらご覧になってくださいね。


topics43 これぞテッパン中の大テッパン!

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881765812/episodes/1177354054887212069

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る