episode52 激流の果て        蜻蛉

蜻蛉かげろうざっくりあらすじ

 浮舟が行方不明になり、どうやら宇治川に身を投げたらしいとのことで葬儀が行われます。匂宮も薫も悲嘆にくれます。



【超訳】蜻蛉かげろう  宇治十帖

薫 27歳 匂宮 28歳

中の君27歳 浮舟22歳



―― 浮舟の失踪 ――

 宇治では浮舟の姿が見えないので屋敷中が大騒ぎなの。けれども事情を知っていて辞世の歌を見た女房は、浮舟が悩みぬいた結果宇治川に身を投げたんじゃないかって心配するの。匂宮と薫の三角関係に苦しんでいたことを知っていた女房の右近も

「あの優しくおっとりした姫さまが自死なさるなんて……」

「どんなことも隠し事はなかったのに……」

 声をあげて泣くの。


 匂宮も浮舟からの手紙に胸騒ぎがして宇治に使いを出すと、浮舟が死んだという知らせが届くの。薫が浮舟を隠して「死んだ」と噂をながしているんじゃないかって疑うの。とてもじゃないけれど信じられない匂宮はあの密会デートに付き添ってきた侍従という女房から話を聞くんだけれど、やっぱり答えは変わらないの。せめて遺体でもあれば信じられるんだけれど、探しようがないわよね。

 三角関係の事情を知らない女房や浮舟の乳母たちの悲しみようもすごいの。そこに知らせを聞いた浮舟のお母さんもやってくるの。お母さんも匂宮とのことは知らないから娘が宇治川に身を投げたなんて考えられないの。鬼に食われたんじゃないか、狐に化かされたんじゃないかとかしか思いつかないの。右近と侍従のふたりは浮舟が自死したことや三角関係のことを隠し通して「お姫様は病死した」ということにするの。そしてその日のうちにひっそりと浮舟の葬儀を行うの。


 そのころ薫はお母さんの女三宮が病気だったので石山寺(現・滋賀県大津市)に籠っていたの。そこに浮舟の訃報が届いたの。薫も匂宮が隠したんじゃないかってまずは疑うんだけど、もう葬儀も行ったという知らせに驚きどうして自分が行くのを待たなかったのかって不満も感じるの。

 それにしても宇治というところはなんて不吉な場所なんだろう。大君が亡くなった場所に浮舟を匿い、その浮舟は匂宮とも恋仲になり、あっけなく死んでしまった。薫は自分の迂闊さを悔やんだの。

 浮舟の美しさや愛らしさを思い出して恋しさが募る薫。

 彼女が生きている頃にはこんなに恋しているとは気づきもせずに人里離れた宇治で寂しい想いばかりさせてしまった。本当に僕は恋愛にうといって悔やむことばかりなの。


―― 匂宮と薫 ――

 匂宮は正気を失ったように数日を過ごしたの。病気ということにしているけれど、あまりの落ち込みように周囲は何事かって心配しているわね。匂宮の様子を聞いた薫もやっぱり浮舟とは深い仲だったんだなって確信するの。

 皆が匂宮の見舞いに行っているのに自分だけ行かないのもヘンに思われると思った薫は夕暮れに匂宮を訪ねるの。淡々とお見舞いの言葉を言う薫の姿にどうしてそんなにも取り乱さずクールでいられるのかって匂宮は思うの。


「さすが悟り切ってるお前は世の中のことに冷静なんだな」

 でも薫も浮舟のことを話し始めると涙をこらえることができなくなったの。

「大君の妹で僕の恋人だった人が亡くなったんだ。身分が低いからね、妻にはできなくても一生大切にするつもりだった彼女が亡くなったんだ」

 薫の涙はとめどなく流れるの。匂宮はそしらぬふりをするの。

「ああ、その人のことなら昨日ちらっと聞いたっけな……」

 そんな風に言いながらも初めて見た薫の涙に匂宮も言葉が詰まっちゃうの。

「具合の悪いときにつまらない話だったよね」

 薫はそう言って帰って行ったの。


「人は木や石じゃないんだ。僕にだって感情はあるんだよ」

 薫はひとりつぶやき悲しみにくれるの。


― 匂宮と中の君 ――

 春になって匂宮が二条院で中の君と一緒にいるところに薫からの手紙が届くの。


~ 忍びや 君もなくらん かひもなき しでのたをさに 心通はば ~

(ホトトギスが鳴いているけれど、あの子のことを思い出して君(匂宮)も泣いているの?)


 中の君がいるので、なんか意味深な歌だよね、なんて匂宮はごまかすの。


~ 橘の 匂ふあたりは ほととぎす 心してこそ 鳴くべかりけれ ~

(ホトトギスもさ、時と場所を考えて鳴くもんだぜ)


 でも実は中の君は夫の匂宮と異母妹いもうとの浮舟の関係も浮舟の亡くなった理由も知っていたの。匂宮も中の君に隠しとおせないと思ったみたいで

「キミがあの子が誰か話してくれなかったから気になっちゃったんだよ」

 そんな言い訳もしたみたいよ。


 月が改まり、匂宮は浮舟の最期の様子を知っている女房を自宅に呼んで詳しく話を聞くの。どんなに恐ろしい思いをして川に飛び込んだんだろうと想像するだけで匂宮は苦しくなり、自分がそこにいたなら止めてやれたのにって悔やむの。匂宮と女房は一晩中浮舟のことを語って過ごしたの。


―― 忘れられない浮舟 ――

 薫もまた宇治へ行って、女房から匂宮と浮舟の関係や入水のことを聞きだすの。まさか自死していたなんて思ってもいなかったから、真相を知った薫はやるせない気持ちでいっぱいになるの。

 どうやら浮舟も匂宮に惹かれてしまったんだ、それでも僕とも別れることもできなかった。僕たちが彼女を板挟みにして苦しめてしまったのか。この宇治川さえなければ彼女が身を投げることもなかったのに。大君といい、浮舟といい、恋しい人が亡くなってしまう「宇治(憂し)」という言葉でさえうとましく思ってしまう薫だったの。


 浮舟のお母さんの中将の君のところに薫から連絡が行くの。娘を失って悲しみに暮れている彼女を見舞い、幼い浮舟の弟たちの将来の面倒も見るつもりだという内容だったみたい。

 中将の君は今まで浮舟が薫と結婚して宇治にいたことを夫の常陸の守ひたちのかみに話していなくて、ようやく打ち明けたの。常陸の守は権力に弱い田舎者だから、薫の名前が出てきて継娘の死を残念がったんですって。

 四十九日の法要は盛大なものになったの。今上帝の耳にも噂は届いていて、自分の娘で薫の正室への配慮で浮舟の存在を隠していたんだなって薫のことを思いやってあげるの。薫も匂宮もまだ悲しみが癒えることもないみたい。でも匂宮は他の女性に手を出して心の慰めにしているんですって。


―― 浮舟を忘れようとして? ――

 匂宮のお兄さんの二宮が式部卿宮になったの。お姉さんの女一の宮には小宰相の君っていう女房がいるんだけれど、楽器の演奏が上手で機転も利く美人で匂宮は気になっているの。

 でも薫が先に付き合っていたみたいで、匂宮はまた薫から彼女を奪いたいとあれやこれや誘うんだけど、小宰相の君はなびいてくれないの。ただ薫と小宰相の君も仲の良い友人同士という関係だけで男女の仲ではないみたいなんだけどね。


 明石中宮さまが源氏や紫の上の法要を催し、その片付けのときに薫は偶然女一の宮(匂宮のお姉さん)の姿を見てしまって、あまりの美貌に心奪われちゃうの。薫の正室奥さんとは異母姉妹なのに全然似ていないの。

 自宅に戻った薫は女一の宮が着ていたみたいな衣装を奥さんに着せてみたりしているの。おまけに明石中宮さまに自分の妻がお姉さんの女一の宮のことを恋しがっているなんて嘘までついて女一の宮から奥さんに手紙を書いてもらえるようリクエストするの。

 思った通りの素晴らしい手紙で薫はまた心を奪われるの。そもそも大君が生きていてくれたなら奥さんとは結婚せずに大君だけを愛し続けていけたのに。彼女が亡くなってしまい、中の君と結婚しようかなと考え、浮舟を愛人として匿い、今は女一の宮に恋している自分に「なんて愚かしいんだ」と薫は落ち込むの。


 その頃、明石中宮さまは女房から今回の薫と匂宮と浮舟の三角関係の話を聞いたの。自分の息子(匂宮)が異母弟の薫(明石中宮は薫が源氏の子だと思っているから)の恋人の浮舟を横奪よこどりしようとしていたことを知ってとても驚いたの。それから薫のためにも匂宮のためにもこのことがウワサにならないよう厳重に口止めをしたの。


 浮舟に仕えていた侍従という女房(宇治川での匂宮と浮舟の密会デートに付き添った女房)は今は明石中宮さまにお仕えしていて、中宮さまのところに来ている匂宮と薫を見かけるの。

「こんなにごりっぱな方おふたりからあの姫君は愛されていたんだわ。どちらかおひとりとお幸せになってくださったらよかったのに……」

 そんな風に浮舟のことを惜しむの。


 明石中宮さまは亡くなった式部卿宮(源氏の弟)の娘が継母に軽んじられていたのを不憫に思い、彼女を引き取り自分の子供の世話役にしているの。宮の君と呼ばれているの。

 匂宮は宮の君が浮舟と血縁があるから(式部卿宮と八の宮は兄弟)、ひょっとしたら浮舟に似てるんじゃないかって気になっているんですって。

 月が素晴らしい夜。薫は女房たちが集まっている部屋に宮の君を訪ねて行くの。同じ皇族で前には薫との縁談の話まであった人が女房になっているのを薫は同情するの。でもどうやら同情だけじゃない別の感情もあるみたい。


 秋の夕暮れ、薫は「はらわたがちぎれるほどにツライ秋の空だよ」なんて漢詩を詠むの。

 匂宮はあちこちの女房たちに手を出したりして昔のオンナ遊びを再開しちゃったみたいなの。

 匂宮の奥さんの中の君はそんなダンナの浮気癖に悩みながらも薫を頼ったりましてや薫と浮気しようとしたりしない分別のある聡明な女性だったから薫は

「こんなに素晴らしい女性ひとは女房達の中にはいないよなぁ」

 って中の君のことを想うの。


 やっぱり大君や中の君、浮舟のことを薫は今でも想っているみたいね。

 

~ ありと見て 手には取られず 見ればまた 行方も知らず 消えし蜻蛉かげろう ~

(そこにいるってわかっていても手にすることはできなくて、捕まえたと思ったら行方もわからなく消えてしまった。キミは蜻蛉のようだよ)



◇匂宮と薫の板挟みに悩んだ浮舟が身投げしてしまいました。匂宮も薫も悲しみにくれますが、その哀しみから抜け出そうともがいていますね。




~ ありと見て 手には取られず 見ればまた 行方も知らず 消えし蜻蛉かげろう ~

薫が宇治の三姉妹のことを想って詠んだ歌




第五十二帖 蜻蛉


☆☆☆

【別冊】源氏物語のご案内

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topics44 コンプレックスの果ての略奪

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881765812/episodes/1177354054887498387

topics45 一筆申し上げます。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881765812/episodes/1177354054887565638

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