【超訳】 源氏物語 ~いつのころだったかしら?~
桜井今日子
第一部 華やかなる恋絵巻
episode1 壮大なSTORY 桐壺
☆桐壺ざっくりあらすじ
平安時代のある帝とお妃さまの恋物語。このふたりから産まれるのが光源氏。幼くして母を亡くした源氏が理想の女性を探す物語のはじまり。
◇さあ、タイムトリップね。
時は西暦1000年ごろ。平安時代。場所は京都。
安倍晴明が陰陽師を極め、政治では藤原道長がその権勢をふるっていたころね。
女の人が十二単を着て(高貴な人たちだけね)、優雅に和歌なんて歌っていた時代といえば、なんとなく想像つくかな?
【超訳】桐壺
源氏 誕生~12歳 藤壺の女御 14歳~17歳 葵の上 16歳
―― 物語のはじまり ――
いつのころだったかしら? 帝からとても愛される女性がいたのね。彼女の名前は
帝には当時の慣例として複数のお妃がいたんだけれど、ひときわ控えめで可憐な桐壺の更衣だけを特別愛したの。他のお妃さま達が自分こそが帝の
「今のままで十分幸せ。神様がくださっただけで幸せなんです」
なんて微笑むから、そりゃ落ちるわね、帝も。
帝をとりまく皇族の方、貴族の方々など男性陣も
「まあ、見ていられないほどのラブラブぶりですな」
なんて冷やかしながらも、唐(当時の中国)では楊貴妃というお妃に夢中になりすぎて国を滅ぼしてしまった皇帝もいたからなぁ、そんな風にならなければいいんだがなぁ、と心配したのよ。
こうなると面白くないのは他のお妃の方々よ。妬まれた桐壺の更衣はいじめられるようになってしまい、ひどい嫌がらせを受けるの。いつの時代も同じねぇ。すると、またそれを知った帝は激昂して、
「今後桐壺の更衣に無礼を働けば、将来の帝への無礼だと思え!」
なんてタンカをきってしまったの。そう、桐壺の更衣は身ごもっていたのね。
他の方々の
「流産してしまえ」
「生まれるにしても女の子でありますように」
なんて呪いのような願望もむなしく、桐壺の更衣は男の子を出産。見たこともないような美しい赤ちゃんなの。
帝にはすでにお子さんがいらして、その皇子の母である
出産したあとも帝の桐壺への寵愛は変わることなく、桐壺とその若君だけを溺愛したのね。だから弘徽殿の女御の怒りによって相変わらずの桐壺いじめも続いて、愛されれば愛されるほど桐壺の苦しみも増えてしまうカンジなの。
桐壺の住んでいる御殿(桐壺)は帝のいらっしゃる清涼殿まで行くのに他の女御たちの御殿の廊下を通らないといけないの。他の女御たちは桐壺の更衣ばかりが帝から呼ばれるから、通り道をわざと汚しておいて衣装を台無しにしたり、ある廊下で扉を閉めて鍵をかけて閉じ込めたりなんてこともしたの。すると帝は自分の清涼殿のすぐ近くの御殿にいた人を他に移して桐壺の更衣のお部屋にしちゃうの。するとみんなはますます桐壺を恨むようになるの。そのうちにとうとう桐壺の更衣は心労で倒れてしまうの。
「死の旅だって一緒に行こうと約束した私達なのに、あなたが私を置いていくなんてことはしないだろう?」
桐壺帝は悲しんで桐壺の更衣にすがったわ。桐壺の更衣も死を直前に、愛する帝に命がけで歌を贈られたのよ。
~ 限りとて 別るる道の 悲しきに いかまほしきは 命なりけり ~
(命には限りはあって、お別れしなければならない今はとても悲しいけれど、本当に私が行きたい道はあなたと生きる道なんです)
こんなに早くお別れしなければならなくなるなら、あなたのためだけに生きたかったのに……。そう思っていたらしいわ。
ふたりの願いもむなしく、桐壺の更衣はそのままお亡くなりになってしまったの。若君はまだ3歳だったのよ。
悲しみに打ちひしがれる帝だったのだけれど、母親そっくりの顔立ちの若君と対面して
「あなたはここにいたんだね」
と抱きしめて涙をこぼされたんですって。
―― 光源氏の誕生 ――
帝は桐壺帝と称されるようになったの。愛した桐壺の更衣の住まいである桐壺に籠りきりだったかららしいわ。お妃の方々は亡くなってもなお帝の心をつかんだままでいる桐壺の更衣にまだ腹を立てていたわね。この頃のお妃たちは与えられた住まいの名前で呼ばれることが一般的だったみたい。桐壺も弘徽殿もそういった部屋の名前ね。更衣、女御というのは帝のお妃の階級ね。更衣よりも女御の方が上の身分で、さらにその上には中宮(皇后)があるの。現時点では桐壺帝の中宮の座は空席。更衣も女御も複数いるけれど、中宮はひとりだけしかなれない。だからみんなが狙っているのよ、中宮の座を。
帝は愛する桐壺の産んだ若君の行末を案じて、有識者に相談したり、占いや人相なども見てもらったりしたらしいの。
「帝位につく人相をお持ちですが、そうすると国が乱れこの人の幸福ともなりません。また帝を補佐する重臣とも違うようです」
そんな風に言われたみたいなの。結局、母親や母親の実家の援助も期待できない状態で他の皇子たちと争ったり、政争に利用されたりしないようにと、若君を源氏の姓を与えて皇族から臣籍(貴族)に下ろしたの。
源氏の君はとても賢くて勉強もよくできて、おまけに音楽などの芸術の才能もあったのよ。それから誰が見ても美しい容姿だったのね。女の子よりも美しかったって言われているほど。だからあれほど桐壺の更衣をいじめていた他のお妃たちも源氏の君のことはさほど憎めなかったみたい。それどころか宮中の可愛いアイドルだったみたいよ。
―― 憧れの人との出会い ――
桐壺の更衣が亡くなられてもう何年も経つのだけれど、彼女を忘れられない桐壺帝は皇族の中に桐壺の更衣によく似ている女性がいると噂を聞きお妃に迎えたの。この方が
桐壺帝は源氏の君を連れてよく宮さまの住まいの藤壺へと通われたから、自然と源氏の君と藤壺の宮も親しくなったの。年頃の男女であればたとえ親兄弟でも娘や姉妹とは顔を合わせないこの頃の習慣だったのに、源氏の君がまだ子供だからと特例で女性の部屋へと連れていっていたらしいのね。源氏の君にしてみれば、幼くしてお母さまを亡くし、そのお母さまによく似ているという噂の美しいお姉さまに好感を抱いてしまうのも当然のなりゆきよね。藤壺の宮さまは源氏の君より5歳年上だったんですって。桐壺帝と藤壺の女御は歳の差婚ってことになるのかな。
源氏の君はたいへんな美貌のお顔立ちで「光る君」、そして美しい藤壺の宮さまは「輝く日の宮」と呼ばれるようになったの。桐壺帝も
「藤壺が桐壺によく似ているから、そうしているとあなた達は親子のようだ。でも藤壺がお若いから姉弟ということにしておこうか」
などと言って目を細めたわ。源氏の君も花や紅葉など美しいものは藤壺の宮にプレゼントしたい、自分のことを気に入って欲しいって思うようになるの。
―― 源氏の元服 ――
源氏の若君は12歳になったの。この時代ではそろそろ今でいう成人式にあたる
元服を迎えるということは大人の扱いを受けることになり、藤壺の宮さまとも顔を合わすことはできなくなったの。当時は通い婚といって男性が女性の家に訪ねていく結婚の形式だったのだけれど、源氏はつれない葵の上のいる左大臣家より藤壺の宮のいらっしゃる宮中で過ごしていたの。元々ご自分のお住いも宮中だったしね。帝は源氏を亡くなったお母さまが住んでいた桐壺に住まわせていたの。そうはいっても、同じ宮中とはいえ藤壺の宮さまには直接は会えないんだけれど。
その頃にはお母さまの実家が家主を失い荒れていたので、源氏はそこを改修して自分の住まいを宮中の外に構えたの。そこは地名から「二条院」と呼ばれるようになるのよ。
◇こうして壮大な物語の幕が上がったの。主人公の光源氏が登場して、亡くしたお母さまの面影を追って理想の女性を求めていくストーリーの始まりね。
~ 限りとて 別るる道の 悲しきに いかまほしきは 命なりけり ~
桐壺の更衣が桐壺帝に贈った歌
源氏物語 第一帖 桐壺
☆☆☆
【別冊】源氏物語のご案内
源氏物語の時代のことを簡単にお話しています。
今とは違う家族構成や恋愛の仕方など、よかったらご覧くださいね。
☆源氏の世界①家族構成~
https://kakuyomu.jp/works/1177354054881765812/episodes/1177354054881800003
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます