episode28 美しいひとたち 野分
◇
台風が近づいてくるので夕霧は六条院などを見周ります。そのとき偶然紫の上の姿を
【超訳】野分 玉鬘十帖
源氏 36歳 紫の上 28歳
玉鬘 22歳 秋好 27歳
夕霧 15歳
―― 夕霧と紫の上 ――
六条院は秋の盛りで自慢の庭が見頃なの。「春と秋どっちが素晴らしいか対決」で元々は秋派だったのに春の御殿の宴ですっかり春派に乗り換えた人もまた今度は秋を賞賛しているんですって。まあ、世論なんてそんなものかもしれないわね。ちょうど秋好中宮さまも秋の御殿に里帰りなさっていて、源氏は管弦の遊びをしたいな、なんて思うんだけど、中宮さまのお父さまのお命日にあたる月だから控えていたんですって。
そんな頃台風(野分)が近づいているらしく、せっかくの花が散ったり、枝が折れたりするんじゃないかって中宮さまは心配をしていたの。
春の御殿も風が強く吹いて、紫の上が心配そうに軒先まで来て庭の草木を眺めていたんですって。風も激しいので屏風などもたたんであるの。そこへちょうど夕霧が春の御殿にやってきて偶然紫の上の姿を見てしまうの。春の霞の中で咲き誇る桜のような華やかさと年とともにさらに美しさを重ねた姿に夕霧は身も心も打ち砕かれちゃうほどの衝撃を受けるの。今まで見たこともない美女だったのね。これほどまでに美しい貴婦人だから源氏が自分を紫の上の傍に近づけないんだと納得するの。
そんなところに源氏が戻ってきたみたいなの。
「ひどい風だね。格子を下ろしなさい。外から丸見えだよ?」
女房達に指図してるみたい。夕霧は源氏に見つかる前にまるでたった今ここに来たみたいに挨拶するの。今まで一度だってこんなこと(紫の上の姿を見ること)はなかったのに、あまりの台風の風のせいで端近(外から見える場所)に紫の上がいたからこんなラッキーなことになったんだって夕霧は思うの。
夕霧は台風の状況を源氏に報告しておばあさまのお屋敷の様子を見てきます、とその場を立ち去るの。
その夜は夕霧の頭の中はひと目見た紫の上の姿でいっぱいなの。恋しい雲居の雁のこともちょっと忘れちゃうくらいに紫の上のことを想っちゃうの。許されないマチガイすら犯しちゃうんじゃないかと自分が恐ろしくさえ思っちゃったんですって。今まで見たこともないような美貌なのに、他の奥さんも大事にしているお父さんは立派だなぁなんて感心もしているみたい。
夕霧はマジメだから紫の上を恋人にしたいなんてことは考えないの。そのかわりじぶんもあんな奥さんが欲しいなぁ、あんな女性と一緒なら長生きできるだろうなぁなんて思ったんですって。
―― 六条院の各御殿をお見舞い ――
夜が明けて風はおさまったけれど、雨が強くなってくるの。
夕霧はおばあさまのお屋敷から六条院に戻って、まずは母親代わりの花散里のいる夏の御殿に行くの。大雨におびえている花散里に優しい言葉をかけてから、春の御殿にいる源氏のところに報告に行くの。源氏は秋好中宮を心配していて、夕霧に秋の御殿の様子を見に行かせるの。秋好中宮さまの返事をもらった夕霧はまた源氏のところへ戻ってきて状況を報告。
やっぱり直接中宮さまのところに伺おうと源氏は支度を始めるんだけど、夕霧がどこかうわの空の様子を見て、紫の上にこんなことを聞くの。
「もしかして夕霧に姿を見られたんじゃない?」
紫の上は「まさか」って答えるんだけど、源氏は怪しんでいるみたい。
源氏は夕霧を連れて秋好中宮さまのもとに台風お見舞いに行き、次に冬の御殿の明石の御方のところにも行くの。そこから夏の御殿の玉鬘のところへ。
源氏は御簾内に入って行っていつもどおり玉鬘と仲良く話し込んでいて、することのない夕霧はこっそり隙間からふたりを覗いてしまうの。源氏が玉鬘を抱き寄せているもんだから「こんな親子アリか?」って疑っちゃうの。
「マジかよ。いくらオンナ好きだからって、小さい頃から育てていないと、娘でもあんなことしちゃうわけ?」
夕霧は源氏と玉鬘が本当の親子だと思っているから嫌悪感をもってしまうのも当然なのよね。
動揺しながらも玉鬘の美しさにも驚くの。夕霧は玉鬘のことを母違いの姉弟だと思っているけれど、姉弟じゃなきゃこれは惚れちゃうよななんて思っちゃうのよ。昨日見た紫の上にはかなわないかもしれないけれど、美女であることにはかわらないよな、って思ったんですって。紫の上が桜のようなら、玉鬘は八重咲の山吹みたいだと例えたの。
そのあとに花散里を見舞って夕霧は源氏から解放されて明石の姫君のところに立ち寄るの。どっと疲れが出るんだけど、雲居の雁に台風お見舞いの文と和歌を書くの。
~ 風騒ぎ むら雲迷ふ 夕べにも 忘るるまなく 忘られぬ君 ~
(風が吹いて雲が乱れた夜だってキミのことを忘れているなんてできないよ)
そこらへんにあった草に文を結ぶもんだから、女房がもっと可愛らしい花に結んでさしあげたらいいのにってアドバイスするんだけど、
「僕はこういうことにうとくてね」
って言うの。とっても生真面目な性格の夕霧なのよね。手紙と和歌は家来が持って退出するの。そこにいる女房たちは夕霧が誰に手紙を出したのか興味シンシンなの。(雲居の雁のことは知られていないの)
夕霧は昨日から紫の上、玉鬘と姿を見てしまって興奮していたのかしらね、明石の姫君の姿も覗いちゃうの。姫君が小さい頃は姿を見たこともあったんだけど、そのころよりずっと美しくなったなぁと夕霧は思うの。年頃になったらこの子も美女になるなぁって思うの。紫の上が桜で玉鬘が山吹なら明石の姫君は藤の花のような美しさなんですって。
またおばあさまのお屋敷に戻ると、雲居の雁の父親の内大臣が来ているの。おばあさまは息子の内大臣に孫の雲居の雁に会えなくて悲しいと愚痴を言うんだけど、逆に内大臣からは夕霧との件でクレームを言われるので強くは文句も言えなかったみたいね。
◇夕霧が紫の上を見てしまいます。あまりの美しさに心を奪われます。父親と玉鬘の微妙な様子も覗いてしまい動揺します。夕霧の心にも台風の風が吹き荒れましたね。けれども雲居の雁への想いも変わっていないようですね。
~ 風騒ぎ むら雲迷ふ 夕べにも 忘るるまなく 忘られぬ君 ~
夕霧中将が雲居の雁に贈った歌
第二十八帖 野分
☆☆☆
【別冊】源氏物語のご案内
源氏物語や平安トリビアについて綴っています。
よかったら合わせてお楽しみくださいね。
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