綾波 宗水

短編でヤンデレを語るとなると、時としてテンプレに陥ちがち。 しかし本作では、それぞれのキャラの反応が巧みに描かれていることで、短くも中身の詰まった物語に仕上がっている。 論争とい…続きを読む

　本作の良かった点は、あまり俯瞰しすぎずに、主人公から見た情景を最後まで残しているところだと思う。 　その情景とは、かつて、いや今もなお、見て感じることのできる等身大の「夏」の様子…続きを読む

十代の持つ複雑で激しい心の動きを、厨二病というモチーフや各回で展開されるコメディ要素で、作中世界そのものを《主人公から見たこの世》として、一人称に落とし込んでいる。 組織やキャラ…続きを読む

退屈な数日の中に、劇的かつ激的な一コマを見出すことで、主人公は現実と夢の境をまどろむことに。 それは背徳的なもので、知らず知らずのうちに取り込まれてしまうような読後感をもたらす。…続きを読む

本作の魅力は、百合的な雰囲気から、タブーへの接近という現代ドラマとファンタジー、そして彼女たちの物語としてではなく、より普遍性ある出来事としても読むことができる、様々な「幅」のある…続きを読む

タイトルから感じられる芳醇なイメージとは裏腹に、作者の、ドリップコーヒーそのものの目線で描かれる、ひとつひとつの工程が実に独特であるが、奇を衒ったものではなくて、なるほど「エッセイ…続きを読む

個人的な憶測だが、もしかすると彼女はこの世ならざるものかもしれない。 舞台となった季節とイベント、そしていつも周りには誰かがいる「彼女」。 クラスでの人間関係とは全く異なった、二人…続きを読む

夏の描写が淡々と語られることで、主人公のフィルターを通していつしか体感することが可能となる。 そこに過度な感情移入はなく、現在起きつつあることであるものの、同時に読者は過去をも見出…続きを読む

家という言葉には二つの意味合いがある。一つは建築。 そしてもう一つが、本作に巧みに描かれる、単なる三次元空間としてではなく、様々な時の流れを思わせる四次元空間とも呼べる存在である。…続きを読む

生物は子孫を残すことでその命を全うするが、人間は子を産むだけでなく、何らかの功績を残すことに快を見出し、また幸福を得る。 あらゆる点で貧しいと言える主人公もまた、ある種の生存本能…続きを読む

私たちは多くのことを「卒業」して生きてゆく。 あるいは、友だちもまた、ケンカなどの具体的理由なしに、月日が経つにつれて疎遠となることがある。 疎遠と絶縁は違う。 このような縁が遠…続きを読む

時として私たちは、好きなものよりも嫌いなものの話題の方が盛り上がる、すなわち理由を逐一述べることができる。そういった経験からも分かるように、得てして私たちは嫌いなものこそ、深く印象…続きを読む

主人公はあくまでも「気障を気取っているわけではない」とするがどことなく気障に思えるのは、なるほど嫌味がないからであり、 言うなれば『せめて少しはカッコつけさせてくれ』といった態度だ…続きを読む

個人的に、私はヤンデレ物語とその作者は、怪談と怪談師に近いと思っているが、本作はまさしく、会話文を通して、様々な想いや行動とを綴っており、非常に惹き込まれる。 いわばミステリーに…続きを読む

タイトルにある「嗜好品」という視点が主人公として冷血なまでに徹底されているが、短編であるからこそ、行間を大いに含むため、様々な過去を想像させる。 突如現れるヒロイン。 彼女の真意…続きを読む

主人公が独身男性であることによる孤独を巧みに利用しつつも、様々な物寂しさを描いており、非常に胸に刺さる。 心情描写がとことんリアルであるからこそ、主人公同様、どこまでがリアルか疑…続きを読む

主として、「○○の聖女」といったような存在は、その奇跡と献身的な言動とを受け、感謝を込めて語り継がれるという、 ある意味では一方方向的な見方であった事を読み手に再認識させる。 善…続きを読む

冒頭から徹底して、登場するキャラクターの言動に共感させないようにしているために、本来であれば「異常」にも思えるものであっても、 何か心境が明かされたとき、読者はある種のマインドコン…続きを読む

まじりっけがなく、他に邪魔されないのを良しとしてバニラアイスを食べる彼女。 この冒頭からいっさいは始まっていた。 短い物語だからこそ、無駄の無いよう徹底されており、その上、読者の…続きを読む

「それでも俺は、人のために働きたい」 そう語って憚らない主人公が、事故とは言え、自身の及ばぬ結果となり、「やり直したい」と強く望む。 異世界転生の結果、主人公には代償としてレベル…続きを読む

主人公の半生を見た時、登場する人は変わるものの、人に対する視点はある種、固定化されており、それが彼女に数奇な人生を歩ませることに。 根底に垣間見えるのは、自身を悲劇のヒロインとし…続きを読む

私も彼女らと同じころにチェスに出会い、今でも時折、指すことがある。 辛い体験などはなかったが、それでも作中で指摘されるように、チェスを元から行っている友人とは、なかなか出会えない。…続きを読む

本作の主人公は自然と、思考の行く先に憂鬱さを見出す。 その有り様を雄弁に語るのは彼の欲求の強弱である。 強欲となると話は別だが、人間は何かを欲することで、文明を発展させてきた。そ…続きを読む

実物と本質は必ずとも一致しない。 百万本のバラを贈ることもあれば、道端にあるような親しみと可愛げのある花を贈る事もあるように、 当人が質素主義であるかを問わず、プレゼントに付与され…続きを読む

シュートという行為に、様々な決定や選択をリンクさせることで、主人公の悩み自体はありふれたものであるのに、一般的な青春物語で終わらず、将来への指針を諭すような展開を読者は見出す。 …続きを読む

和気あいあいとした会話が、ほんの少し止まるだけで、各々の心が見え隠れしはじめる。 そういった描写が駆使されていいるがために、読者は喜怒哀楽を共有しつつ、好奇心も刺激される事となる。…続きを読む

全身全霊をかけて芸術に挑み続けた男の引退は、それまでのただならぬ熱意の反動を生じさせる。 感情の濃淡が丹念に描写されている本作はまさに絵画のよう。 それを読み解く様子は、鑑賞者と…続きを読む

舞台設定に準拠した語彙を適度に使用することで、現代と大正との違いを演出する。それは、明治ほど飾り過ぎず、昭和ほど家庭的でもない。 だが、この時代を生きるモダンガール、本作の言葉を…続きを読む

いくつもの擬音を、一文によって恐怖を演出する。 そしてそれは怪談・悪意という二つのジャンルによって追求されており、ただ不気味な文言を並べて良しとしているのではないのが、本作の魅力。…続きを読む

まさに「ほのぼの」の一字に尽きる。 続きが読みたいが、本作においては短編だからこそ、ぬくもりが見事につぎ込まれているのだろう。 連載や長編になった場合、つまり、主人公たちが再び歩み…続きを読む

死を間近にして現れた謎の女性。彼女にはどこか現実味が欠けている気がしてならない反面、日を重ねると、あるいは読み進めるとそうでもなく、それぞれのキャラに日常があることが分かる。 そ…続きを読む

長文タイトルゆえ、大まかなシナリオは読まずとも分かるだろうが、それにしてもこの不運と非力さには、自然と庇護欲に近いものを読者に感じさせる。 絶体絶命の危機の連続。 それはクエスト…続きを読む

高校生活と海での描写がマッチしていて、悩むこと自体も青春のワンシーンであるように感じさせる。 それは決して大人ぶったおままごと的苦悩ではなく、一個の人格としての憂いである。 海の…続きを読む

ミステリーにも「本格派」があるように、怪談もまた、ホラーとは違う面白味や趣向があることを、本作は思い出させてくれる。 怪談とは読んで字のごとく、怪奇について談話するものであり、読…続きを読む

不気味なストーリーであり、なおかつ、どこかメタファーを感じさせたりもする深い闇に包まれた物語。 題名にいたってもなかなかに意味深長で、決して子供騙しのお化け屋敷的ホラーではない。 …続きを読む

平々凡々というのもまた、案外、為しがたいものである。 波風を立てないということは、その分だけ争いやいさかいが無いという事であり、天才ならいざ知らず、「人並」とされる者の所業にこそ、…続きを読む

脆さや歪さをどこか感じさせ、充足感の無い作中の雰囲気は、読者の中に入り込み、その欠落した何かを探し始める。 目標が目標でなくなった時、何を依り代に歩んでゆくのかを、ショッキングな…続きを読む

静かに、それでいて限りなく本心が綴られてゆく、それが日記の特質。 しかしながら、そこに書かれる日常は、書き手の状態によって左右され、不可思議以上の何かを読み手は知ってしまうことがあ…続きを読む

見事に突発性を捉え、描き出している。主人公を通して読者は、当事者であり目撃者にもなるが如き臨場感を得る。 不条理のようだが、悲しいかな、紛れもない現実味が徹底されている。 だがし…続きを読む

奇怪な依頼と対照的に、高名な父と息子であると同時に弟子でもある主人公という関係性が、不思議と親しみを与える。 臨場感あふれる戦闘・お祓いシーンは、舞台描写の妖艶さも相まって、読者…続きを読む

賞金稼ぎという設定を巧みに独自のものとしており、主人公の能力の特異性は大きな魅力となっている。 タイトルにあるように、計略的な展開が丹念に描写されている。 まだまだ能力も描くこと…続きを読む

幾度となく重ねた“勝負”によって抱いた感情は、どこか麻痺のような雰囲気さえ漂わせる。 タイトルにある大まかなシナリオはそう珍しいものではないが、転生・変化に関する諸設定は特異であ…続きを読む

冒頭から作者の目の付け所に驚きとともに圧倒される。 八百万の神々や付喪神といった風土を持つのもあって、不思議さを伴いながらも、決して違和感がない。 「一寸の虫にも五分の魂」を彷彿…続きを読む

どこか昭和的な雰囲気を醸し出す小説家の男の日常。 その何気ない日常は、いつまでも続くものだと、主人公のみならず、読者である私自身までもが勘違いしてしまっていた。 口は禍の元・雄弁…続きを読む

とても優しい繋がりに伴う“妖”という名の不幸。 その優しさは、読者に親しみを与えるだけでなく、主人公の恋の行く先を案じさせるほどに親密にさせる。 タイトルは主人公がいずれに進むの…続きを読む

チュートリアルと言えば、スキップしたくなるプレイヤーも少なくないだろうが、本作ではそうではない。 その光景は読者自身の初心とも言うべき記憶と結びつくことで、より印象深いものとなって…続きを読む

本作の特徴の一つに、月日の流れの早さがあるが、そういった点がどこか、思い出の写真を集めたアルバムをめくって懐古しているような心持ちにさせる魅力がある。 様々な意味で禁断な思い。 …続きを読む

―最終的な決定権は自分にある― 無数の選択肢によって、日常のワンシーンでしかないはずの食事風景が、瞬く間に懐疑的で不安定な試みと空間へと化してゆく。 いっさいが己の選択によるも…続きを読む

彼女らの日常は悲しいかな、どこまでもリアルで、私が読んでいるこの瞬間、多かれ少なかれ似通った境遇と心情とを抱いて過ごしている人が存在する。 そう思うとより一層、読者は深く読み進め、…続きを読む