“自分”を再認識させる物語。作品を遺す命と、作品によって遺される命

生物は子孫を残すことでその命を全うするが、人間は子を産むだけでなく、何らかの功績を残すことに快を見出し、また幸福を得る。

あらゆる点で貧しいと言える主人公もまた、ある種の生存本能として、絵を描くことを生きる糧とし、またそれによって逆説的だが、初めて生存と現実存在(実存)を知ることとなる。

主人公にとって、生存を裏付けるものは絵画であったが、読者の個々人にとっても自然と、それぞれ何か代替できるものが思い浮かんでくるはずだ。
そうして遺されたものは、自身の分身として、たとえ命が散ったとしても、貧窮とはかけ離れた尊いものとして在り続けるだろう。