絵 アルファポリスにて重複投稿

ソウカシンジ

 一人の画家がいた。その画家に名はなかった。孤独で、捨て子で、友もいない、そんな画家は男だった。男は絵を描いた、画家と名乗る前に。ゴミ捨て場に捨てられていたスケッチブックの余りページに、太陽の絵を描いたのだ。どのようにして描いたかって?それは勿論街中でさ。街中の誰も入ることがないような路地のその裏で、同じくして捨てられていた鉛筆を使って書いたのさ。

 この時男は五歳であった、如何にして五年も生き永らえたのだろうか。私には想像もつかない。大きく膨れたお腹と温かいおくるみがあったからだろうか。生まれが裕福であったにも拘らず、子を産みすぎた母に捨てられた男は捨てられる前夜、いつもよりもよく食べ、よく寝たそうだ。そして母からおくるみを賜り、捨てられた。どうにも運のいいやつだ。

 その強運で生きた命が描いた太陽は、大層素晴らしいものだったそうな。色が無くとも、太陽の輝きがありありと浮かび上がってくる程に。それから画家は自分の命を賭して、ひたすらに様々な絵を描き続けた。その数は五百作。十歳で衰弱死するまでの僅か五年間、ひたすらに筆を探し、紙を探し、絵を描き続けたのだ。男は少年であった、少年のままであった。画家と名乗っても、作品数が百を超えても、少年のままであった。少年の遺作は自画像であった。鏡を見たことがない少年の自画像であった。少年は最期まで自分が分からなかった。

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絵 アルファポリスにて重複投稿 ソウカシンジ @soukashinji

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