失われた日常を求めて、主人公は世界を見つめ直す

十代の持つ複雑で激しい心の動きを、厨二病というモチーフや各回で展開されるコメディ要素で、作中世界そのものを《主人公から見たこの世》として、一人称に落とし込んでいる。

組織やキャラクターの素振りといった舞台装置も、あくまで読者が厨二病患者的であったならピンとくる、どこかにあったかもしれない事物の数々と秘密の物語。
主人公とは関係が薄い日常は消え失せ、“歪んだ世界”が物語られる。

次元が歪んだこの世界では、空間と時間は必ずしも共有されず、青年の目から事件がどう移り変わっていくのかが重要。
だからこそ、彼によって知覚された世界は、それまで彼が日常よりも親しみを覚えてきたであろう〈虚構性〉が強い。

それがかえって、読者としては風景などをイメージしやすく、ストーリーに馴染めば馴染むほど、個人的には中盤からは特に、感覚的に読者とリンクして内容が滑り込んでくるかのようなテンポ感が非常によかった。

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