悲観的だが否定的ではない、人生における数々の岐路

本作の主人公は自然と、思考の行く先に憂鬱さを見出す。
その有り様を雄弁に語るのは彼の欲求の強弱である。

強欲となると話は別だが、人間は何かを欲することで、文明を発展させてきた。それゆえに、清廉潔白とも違う欲求の薄れは、時として文化的生活を損なわせる。

空虚さの伴う主人公と、人気と体格の良さを兼ね備えるかつての友人。

魅力を感じれば感じる程に、無意識なのか、より対照的な立ち位置へと自らを追いやる。
そのため、本作における主人公の希望的決心もまた、読者にはどこか破滅への一歩のように感じられる節がある。
それでも、読者は本作を嫌いになれない。