第182話
杏奈はその日の夕方、最寄りの駅で電車を降りて自宅に向かって歩いていた。既に野球部は引退していたので、まだ陽は暮れていない。其処から15分程反対側に歩くと、克樹の学校の森里高校が見えて来る。杏奈はその道を歩いていた。その時である。
「佐久間さんじゃない?」
いきなり後ろから声を掛けられたので振り返ると、其処には彩加の姿があった。
「彩加さん?」
「久しぶりね。元気だった?」
彩加の声は明るい。
「はい。彩加さんも元気?」
「元気よー。これから塾行く所なの。冬季特別講習。まあ、もうすぐ受験だしね。仕方ないか」
彩加はそう言って苦笑いになる。
「彩加さんは何処の大学に行くの?」
「和田山大学法学部。私、これでも弁護士志望なの」
「そうなんだ。私は警察官志望なの。
だから地元の神戸港台大学に行くわ」
「へえー!意外ねー。まさか佐久間さんが警察官志望とは」
彩加は驚きに目を丸くしている。
「私、強くなりたい。克樹は私を守って大怪我の挙げ句、死んでしまった。だから自分の身は自分で守れるようになりたい。だから今、柔道を習っているの」
意外な杏奈の言葉に、彩加は強く胸を掴まれていた。
「……そう。克樹は命かけてあなたを守った……そして死んでしまった。佐久間さんはその苦しみをちゃんと受け止めていたのね」
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