第143話

「杏奈、ごめん。俺と別れて欲しい。他に好きな人がいるんだ」

翌日の放課後、克樹と杏奈は花崎高校の裏門近くに立っていた。

杏奈は野球部のマネージャーなので、既に午後7時を過ぎている。既に日はどっぷりと暮れていたので辺りは真っ暗だ。裏門の周りには人影はない。

「そう。好きな人って彩加さん?」

杏奈に動揺はない。

「私、分かってた。彩加さんは克樹が入院していた時、毎日お見舞いに来ていた。私は夜道が怖くて……あんまりお見舞いにも行けなかったから」

「それは杏奈のせいなんかじゃない!」

克樹は激発していた。

「あいつらを殺してやりたいよ!夜道を歩くのが怖い程の傷を杏奈に与えた奴らを!」

克樹は身体中が燃え上がるような怒りに震えている。

「克樹……!」

杏奈は堪らずに克樹に抱きついていた。

「ごめん。別れて欲しい……」

「私は克樹が好き。本当は別れたくない。でも彩加さんなら、仕方ないよね……」

杏奈の瞳から涙が溢れ落ちた。

その時、克樹の頭の中が真っ白になっていた。

杏奈が泣いている!

克樹の頭の中がその事に完全に占領されていた。

克樹は杏奈を抱きしめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る