第9話
「そうか……馬場君、他の子と付き合い始めたんだ」
「うん」
「それで良かったの?」
大場明音が言った。
明音は小学校からの彩加の親友である。
花崎高校の美術科に通っていた。
明音は労わるような眼差しで彩加を見ている。
「お姉ちゃんが天に還って行く時、ずっと空を見上げていた彼の横顔が忘れられない。遠くに行くお姉ちゃんに心を合わせていた」
「彩加…… 」
「私は馬場ちゃんの気持ちを、誰より知っている。お姉ちゃんへの想いも」
「そうだね…… 」
「同情なんかで付き合って欲しくなんてない。だからこれで良かったの」
「…… 」
「だから明音も応援して。馬場ちゃんの恋が上手く行くように」
明音は何も言わずに彩加を抱きしめた。
朝の墓地には彩加の他には誰もいない。
彩加はある墓の前で足を止めた。
花活けには新しい花が活けてある。
「そうか……馬場ちゃんが来たんだね」
彩加はそう言うと花活けに菊の花を活けた。
今日は祐里の月命日だ。
「お姉ちゃん、馬場ちゃんはどんな話をして行ったの?」
彩加は目を閉じると静かに手を合わせた。
「甲子園予選大会が始まったよ。お姉ちゃんも馬場ちゃんを応援してね」
彩加はそっと目を開くと墓石に語りかけた。
まるで目の前に佑里がいるかのように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます