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第50話
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翌朝は晴天だった。
一晩中降り続いた雪は、街を白くしていた。
屋根も道路も森も、すべてが白い。
雪の白と空の青が美しく、エミリアンは感動して涙を浮かべていた。
「この朝が、世界で一番美しいです」
ギィが世界で一番美しいと思っているのは、エミリアンだ。なるほど、美の基準は人それぞれだ。シルヴィには感謝してもしきれないと、ギィは思った。
二人は朝食を終えてから、森へと出かけた。エミリアンがずっと夢見ていた、雪の森だ。
凍った道で何度も滑りそうになりながら、エミリアンはギィにしがみついた。
誰も歩いていないところを見つけては、自分の足跡を残した。
初めて来た雪の森は、神秘的で、どこか別世界への入口のようだった。
時が止まっているように感じたが、雪の重みで枝がしなり、雪が落ちる音や鳥の鳴き声も聞こえた。
エミリアンは初めての雪が珍しいようで、何度も手に取って感触を確かめていた。
どれほどそうしていたのか、ふと、エミリアンが立ち止まり、小さな息を吐いた。
幸せな溜め息だ。ギィはそう思って笑った。
「満足?」
「はい。もう、十分です。私は幸せです。ギィと一緒にいられて、雪の森に来ることが出来て……。
ありがとう、ギィ。忘れません……」
何か嫌な予感がした。そしてギィの場合、その予感ははずれたことがない。
「レネックに、帰らないと……」
突然、エミリアンは倒れた。すぐそばにいたギィが支えたが、まるで死んでいるかのように動かない。
「エミリアン!?」
綺麗な薄紫色の瞳は見られなかった。
「エミリアン!!」
前にもこんなふうに倒れたことがあった。でも、あのときはすぐに目を開けたはずだ。
「エミリアン!
……シルヴィ! シルヴィ!! 来てくれ!! お願いだ!!」
ギィの悲痛な叫び声を聞きつけて、シルヴィはすぐに現れてくれた。
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