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第13話

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ギィがレネックへと旅していた時間は、約三十分ほどだった。


シルヴィと話していた撮影現場の楽屋に戻ったが、小さな魔法使いの姿はなかった。


旅する時間は決められているのか、再びレネックへと行かれるのか、シルヴィに聞きたいことは色々あったのだが、何度呼んでも、彼女が現れることはなかった。




☆☆☆




季節は秋になった。


仕事をしている以上、無責任なことはできない。ギィはこの撮影が終わったら、この曲が完成したら、レコーディングがすんだら……と、『奇跡の扉』を開けられないでいた。


三つのキーワードがなかなか揃わないせいもあった。

風、香り、キス。この三つがキーワードだと確信はしていたが、微かな風ではダメらしい。


香りは、香水を持ち歩けばいいとして、キスも問題だ。あのときキスをした、風の精霊らしきものでなければならないのか。


風の精霊なんて、今まで一度も見たことはない。

シルヴィがいたから見えたのだろうか?

だとしたら、シルヴィがいてくれなければ……。


けれど、気まぐれなのか、聞こえないのか、ギィが何度呼んでも、シルヴィは来てくれなかった。




☆☆☆




毎月恒例である、音楽雑誌のコスプレ撮影日がやってきた。

本日の衣装は『サン・ジェルマン伯爵』だ。


サン・ジェルマン伯爵とは、十八世紀から二十世紀にかけて、ヨーロッパに出現した不老不死の魔術師。音楽家であり画家でもあり、語学も堪能であったと言われる人物。詐欺師では? という見解もあり、そんなところもギィには合っていた。


衣装は紫色の長衣。衿や袖や裾に金の縁取りがしてあり、きらびやかで豪華な宮廷服だ。

髪型はつけ毛をつけ、ベルベットのリボンを結んでいる。

手には水晶玉。


「我ながら、惚れ惚れするね~」


自画自賛だが、回りのスタッフもため息をついている。


ギィは美青年だ。ライブでは攻撃的な雰囲気も出したりするが、普段はいつも柔和な笑みをたたえている好青年だった。

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