第12話

「まったく、どこから忍び込んだんだか。リシャール様ー! 旦那様ー!」


人を呼ばれてはたまらない。ギィはとっさに歌い出していた。好きで見ている、アニメのオープニング曲を。


サビの部分を高らかに歌い上げる。ああ、ここの音程が好きなんだよな、と思った瞬間、歌が止まる。


歌詞を忘れてしまったのだ。


エミリアンとロシェルは抱き合ったまま、固まっていた。二人とも目を見開き、ぽかんと口を開けている。


「い……いい声……」


「やっぱり、吟遊詩人なんですね!」


変質者の疑いは晴れたのだろうか。


けれどギィは、再びショックを受けていた。今歌ったのは、自分の持ち歌ではない。友人と呼べる仲のいい、バンドのヒット曲だ。


「とっさとはいえ、なんで他人の曲……」


自分の持ち歌にだって、いいものはたくさんあるのに。いや、すべてがいい。誰にも負けないはずだ。


俯いて額を押さえたギィは、光に包まれていることを感じた。足元からだんだんと光が上がってきて、あっと思ったときには眩しくて何も見えなくなった。


(エミリアン――)


初のレネックへの旅は終了となった。




★★★




花咲き乱れる庭園では、ロシェルとエミリアンが抱き合ったまま硬直していた。


「ゆ、幽霊……」


「でも、足がありました」


けれど、二人の目の前でギィは消えた。ギィの足元から光が広がり、彼を包み込んだ後は、一瞬にして姿がなくなっていたのだ。







常緑樹の生け垣に隠れるようにして、子供が見ていた。ギィ、エミリアン、ロシェルのやりとりを。そして、ギィが消えたところも。


「……あれが、ギィ……」


銀髪にグレーの目を持った子供は、十二、三歳くらいの少年だ。

彼は消えたギィにライバル心を剥き出しにするように、幼い顔を歪ませた。

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