第14話

「本当にギィさんには、こういう服が似合いますよね。前回の『吟遊詩人』も、かなり反響がありましたよ」


「今度は怪盗とか、どうですか?」


スタッフに誉められて、ギィは「それ、いいね」と返事をした。


休憩が入り、ギィは「金のバラのブローチ」がこの衣装に合うのでは、と思いついた。


楽屋に行き、シルヴィからもらった『鍵』を左胸につけてみる。本物のバラのように、甘い香りが漂っていた。

窓を開けると、微かな風を感じた。


「この姿、エミリアンに見せたいな」


「それなら見せに行けば?」


可愛らしい声に、ギィは振り返った。


「もう扉の開け方はわかってるんでしょ」


ギィはシルヴィの名を叫ぶと、彼女の両肩に掴みかかった。


「頼む。キスさせてくれ」


「えっ!? ちょ、ちょっと!!」


ギィは屈み込んで、シルヴィの唇に唇を近づける。


「ギィ! 嬉しいけど、心の準備が――!!」


シルヴィはギィの長衣を引っ張り、自分とギィの顔の間に胸元を持ち上げた。


二人の唇の間にはバラのブローチ。ギィはブローチにキスをした形となったのだ。


香りは広がったが「風」はない。奇跡は起こらない……。


(これは犯罪だろうか)


目の前のグレーの瞳を見つめながら、ギィが冷静に考えていると。

開けた窓から、さあっと風が入ってきた。


シルヴィが魔法を使ってくれたのか、タイミングよく風が吹き込んできたのか。


どっちでもいい。『扉』は開いたのだから。




☆☆☆




庭園は夏から秋へと、色が移り変わっていた。

花は数多く咲いているが、木々の葉は緑一色から黄色や赤が交じった、落ち着いたものへとなっている。

葉が少なくなった落葉樹の枝の間からは、水色の空が見えた。


この間来たホワイト・ガーデンは、どのあたりなのだろう。


広い敷地を歩いていたギィは、絵を描いている女性を見つけ、そちらに近づいて行った。

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