第15話

ロシェルがメイドなら、彼女はここのマダムだろうか。肩につく金髪は緩く波打っていて、カーディガンにパンツという現代の服を着ていた。


ギィはこんな格好で話しかけたら、やはり変質者と叫ばれるだろうかと不安になった。


サーモンピンクのダリアを水彩絵の具で描いていた女性は、気配を感じたのか、くるりと振り返った。


「あら」


予想に反して、笑顔を向けられる。


「ステキ。どこの公爵様かしら?」


愛嬌のある水色の目と、大きな口が印象的だ。三十代半ばといった女性は、パレットとスケッチブックを置いて、立ち上がった。


「あなたがギィね。私はエリーズ。エリーズ・ド・デュレーよ。よろしくね」


貴族だ。広い庭園の向こうに、大きな屋敷が見えた。


「ギィです。撮影を抜け出して来たのでこんな格好をしていますが、ミュージシャンです」


エミリアンは妖精のようだったが、ここは古い時代やおとぎ話の世界ではないらしい。


エリーズがギィを知っていたのは、きっとエミリアンが話したからだと思い、不審者だと思われなくてよかったと安堵した。


「あなたは魔法使いなの? どこから来たの? いきなり消えたって聞いたけど?」


はきはきと質問してくるエリーズには、探るような様子はなく、純粋な好奇心だということがわかり、好感が持てた。


「僕は魔法使いではありませんが、魔法の力によってここへと来ました。

……信じられないかもしれませんが」


「信じるわ」


にっこりと笑い、エリーズは声を張り上げてエミリアンを呼んだ。


しばらくすると、木々の間からエミリアンが姿を見せた。ギィを見て、嬉しそうに走って来る。


「ギィ。もう会えないのかと思ってました。……髪が……伸びましたね」


「これはつけ毛だよ」


ギィは綺麗な紫色の瞳を見つめて、さらさらの金の髪に手を伸ばした。


「ロシェルにお茶の追加を頼んで来るわ」


エリーズは屋敷のほうへと行ってしまい、ギィとエミリアンの二人になった。

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