第54話
シルヴィだけが冷静だった。悲しんでいる皆に、可愛らしい、高い子供の声で話し出す。
「確かに、ここにいれば、エミリアンは冬を越せたかもしれない。でも、あの子はとても幸せだった。
ねえ、みんな、どうして私がデュレー家を選んだと思うの? 春はまたやってくるのよ?」
リシャールがふっと顔を上げ、シルヴィを凝視する。
「まさか……」
「はい。お願いしますね」
エリーズ、ロシェル、そして最後にギィが顔を上げた。
エミリアンは死んだわけではなく、枯れただけ。それは花の宿命。ギィは手の中の小さな種を見て、そうか、と呟いた。
「春になったら、また、咲くんだね」
ギィは名残惜しそうに、種をリシャールに差し出す。
「俺は腕のいいガーデナーだからな」
彼はしっかりと受け取った。
「これは私の推測なんだけど、冬を知ったエミリアンは、今度はもっとたくましく生まれてくると思うの。これも、ギィが雪を見せてくれたおかげよ」
ギィを慰めるための言葉ではなく、本心だ。シルヴィはギィの手を、力強く握った。
「ギィ、ブローチを大事にしてね。気づいてた? あれはエミリアンの一部なのよ」
「……僕が、持っていてもいいの?」
「あれがなかったら、ここへは来られないでしょ?」
ギィはデュレー家の三人を見て、頭を下げた。
「また……ここへ来ることを、許して頂けますか?」
「エミリアンが俺達よりも愛してるのは、よその世界のミュージシャンだからな」
仕方なさそうに言うリシャールに、エリーズとロシェルも頷く。
「待ってるわ」
「いつでもどうぞ」
ギィは嬉しくて、幸せで、胸がいっぱいになり、再び涙を流した。
エミリアンにまた会える。
春になれば、きっと……。
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