第19話
☆☆☆
いつもの庭園ではなく、ギィは部屋の中にいた。
後ろには大きな暖炉、左にドア、前方にはベッド。そして右側は高い窓で、厚いカーテンがかかっていた。
窓と窓の間の壁に、色々な形の紙が貼られている。手のひらサイズの、雪の結晶のようなもの。白や水色の紙で出来ているので、そうなのだろう。折り紙を折って、切って、開くと出来る切り紙だ。
ついたてからパジャマ姿のエミリアンが出て来て、目を丸くした。
「ギィ……」
ギィはすぐに駆け寄り、エミリアンの顔をのぞき込んだ。
「具合はどう? 心配してたんだ。すぐに来られなくて、ごめん」
「大丈夫です。驚かせてすみません」
微笑むエミリアンは元気そうだ。
「君は……身体が弱いの?」
「そんなことはないんですが……。あのときは、びっくりして」
「僕が何かした?」
エミリアンはギィの服装を見て、小首を傾げた。
「そういう普通の格好もするんですね」
今日のギィは、白いシャツに黒いジャケットという姿だ。
「ギィは、魔法使いなんですか?」
真剣な顔で聞かれたので、ギィも真摯に答えた。
「僕は歌い手だ。魔法の力でここへ来ているけど、僕に魔法は使えない」
「でも、情景が見えました。ギィの歌を聞いて、海が見えたんです」
「それは嬉しいな」
「本当なんです。私は遠出をしたことがありません。一度、リシャールとエリーズにデパートに連れて行ってもらいましたが、気分が悪くなってしまって。
人混みは苦手です。だから、海にも行ったことがありません。テレビや本でしか、見たことがない。
でもギィの歌を聞いていたら、回りが海になっていた。広くて、とても広くて、空と同じくらいに広くて……びっくりしたんです。それで、倒れてしまいました」
そんなふうに言ってもらえると、作者冥利につきる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます