第20話

やっぱり身体が弱いから、外へは出ないようにしているのだろうか。それを知られたくないのだろうか。エミリアンを気遣って、ギィは違うことを尋ねた。


「リシャールとエリーズは、君のご両親なの?」


二人とも四十前後に見えるので、若いときの子供という見方もあるが、エミリアンには二人に似ているところはなかった。


「はい。お父さんと、お母さんです。ロシェルは友達です」


エミリアンがそう言うなら、それでいい。


「お茶の用意をしてもらいます。ロシェルが焼いたマドレーヌもあるんです。それも一緒に――」


ギィはエミリアンの手を掴んで、「お茶はいい」と言った。


「マドレーヌより、もっと甘いものが食べたいな」


「チョコレートやキャンディなら、ここにありますが……」


首を横に振って、ギィは人差し指をエミリアンの唇に当てた。軽く二回、触れる。


意味がわからないというように、エミリアンは小首を傾げた。


「可愛い……」


もう二回指を当てた後、ギィは身を屈めて、エミリアンの唇に自分の唇を押し当てた。


花びらのようにしっとりとした唇。ギィは角度を変えて、より深く口づけた。

ぴったりと重なる唇。

微かな震えを感じて、ギィは優しくエミリアンを包み込んだ。


大切にしたい。このまま離したくない。


どのくらいそうしていたのか。腕の中でエミリアンがくたっとしていることに気づき、ギィは慌てて身体を離した。


「エミリアン?」


目を閉じたままぐったりしている様子は、この間と同じだ。


「ど、どうしよう。誰か……。ロシェル……エリーズかリシャールに――」


ギィは普段では考えられないくらいにおろおろした。その様子を見て、エミリアンが弱々しく笑っている。


「エミリアン……?」


「大丈夫です。ちょっと、驚いただけ」


ギィの腕に掴まり、ちゃんと立つ。


「本当に、平気? 誰か呼んだほうがいいんじゃないか?」


「あまり大袈裟にしないで下さい。みんな、心配するから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る