第26話

「キスが好きなんだって。誰とでも、キスするらしいよ」


優しく触れられた唇。あんなふうに、誰にでもキスをする……?


「そ、そんな話は聞きたくありません。あなたはギィの友達なんじゃないんですか? どうして、そんな、意地悪なことばかり……」


エミリアンの目に涙が浮かび上がってきた。それを見て、ローランはきつい口調で言う。


「友達なんかじゃない。僕はギィが嫌いなんだ」


軽く目を見開き、エミリアンはローランを凝視した。そんな様子を面白がるように、今度はローランはにっこりと笑う。


「だから、ギィを好きになりたいんだ。ギィのこと、話してよ」


人に話すようなことは何も知らない。ただ、ギィはいつも気遣ってくれて、優しくて、愛情を注いでくれる。はっきりと言われたわけではないが、全身で愛を示してくれるのだ。


一緒にいるだけで愛を感じる。それは間違っていないと、エミリアンにはわかっていた。


会いたい。今度はいつ会えるのだろう。こんなに思っているのに、ギィは今頃、知らない女の子とキスをしていたりするのだろうか……。


声もなく、エミリアンは泣いた。

ローランは面倒くさそうに溜め息をつくと、エミリアンの顔をのぞき込んだ。


「僕と一緒に来ない? 僕なら、君に『永遠』を与えてあげられるよ」


危ないものは感じなかったが、エミリアンはローランが怖くなった。


「行きません」


この人と一緒にいてはいけない。エミリアンは立ち上がると、屋敷のほうへと駆け出した。


残されたローランは、ぼんやりと呟いた。


「本気で誘ったわけじゃないさ。僕が欲しいのは、一人だけだからね」




☆☆☆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る