第25話

「どなたですか?」


青年は立ち上がり、優雅にエミリアンの手を取った。


「旅のピアニストで、ローランと言います」


ギィと同じような挨拶をして、にっこりと微笑む。


怪しい感じはしない。エミリアンの回りには善良な人しかいないので、危険な感覚には疎い。けれど、触れられても嫌な気はしないので、大丈夫だと思った。


ローランは優しそうな印象だ。ギィに負けないような美青年だと思う。でも、ときめかなかった。それが、ギィが特別なのだということに気づく。

最初から目が離せなかった。触れられて、ドキドキした。ギィだから……。


「ギィじゃなくて、がっかりさせたかな?」


図星をさされて、エミリアンは焦った。そんな態度を見せてしまっただろうか。失礼なことをしてしまった。


「君はギィが大好きだものね」


「あなたは、ギィのことを知ってるんですか?」


「まあ……ね。君がギィを知ってるくらいには」


どういう意味だろう?

エミリアンは、ギィの住所や家族構成といった個人情報を知らない。自分のことを話せないので、聞くこともできないのだ。また、ギィも語らないからだった。


「君の知らないことも知ってる……かな」


意味ありげに微笑むローランは椅子に座り、「知りたい?」と尋ねた。


ギィのことならなんだって知りたい。エミリアンも椅子に座り、「教えて下さい」と言った。


「聞いた話なんだけどね、ギィはすごく手が早いんだって」


「手が早い?」


「そう。女たらしなんだってさ」


「女たらし?」


「あれだけのルックスだし、稼いでるらしいしね。女の子達に、豪華なプレゼントとかしてるらしいよ」


手が早く、女たらし。なんとなく理解はできる。エミリアンは顔を曇らせた。

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