第35話

「あの……、シルヴィは僕のことを、なんて言ってるんですか?」


「ギィは私の知る世界で、一番ステキな人。人間の中で、最も優れた人。ギィの歌には力がある。人に夢を見させる力。おまけに声が良くて、超ハンサム」


イェレと呼ばれた男性は「よく覚えてるな」と感心していた。


「私はカロリーナ。こっちは主人のイェレ。ここの経営者よ」


客達はそれぞれテーブルに戻り、食事の続きをしながらも、ギィ達を気にしている。


「僕はギィ。この子はエミリアンです。それで、シルヴィは?」


「まだ戻ってないわ。あの子はあちこちの世界を旅して、魔法の修業をしているのよ」


そう言えば、しばらく旅に出ると言っていたっけ、とギィは思い出した。


「注文は何にしますか? 温かいスープ? それともホットチョコレートとか?」


イェレは寒そうにしているエミリアンに、笑顔を向けた。白い髭の、優しそうな主人だ。


「僕達、お金を持ってないんです。それで、シルヴィを頼ろうと思って来たんですが……」


カロリーナは「大丈夫よ」と、イェレと顔を見合わせた。


「自分がいないときにギィが来たら、面倒をみてあげてくれって言われてるの」


まるでシルヴィのほうがお姉さんのようだ。ギィは苦笑しながら、エミリアンの手を握った。


「ではお言葉に甘えて。エミリアン、何にする?」


「ホットチョコレートにします」


「では僕もそれをお願いします」


夫妻は仲良く奥へと引っ込み、ギィとエミリアンはようやく落ち着けた。


店内にはクリスマスツリーが飾られていた。金や銀や赤のボールが吊り下げられ、キラキラとしたチェーンがもみの木に巻きついている。

窓には細い枝がかけられ、赤や緑の星やベルが飾られていた。

そして金色の小さなツリー。その枝からは星やハートや雫型のガラスが吊り下がっていた。そのツリーが乗っているのは、白いピアノだった。


「あの……、ギィ……」


「ちょっと待ってて」


ギィは立ち上がり、ピアノのほうへと歩いて行く。回りの客に何か聞き、数人が頷くのを見てから、ピアノの椅子に座った。

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