第34話

「やっぱりミュレルか。ここがシルヴィの国なのか」


一人言のように呟いたギィに、女性は「おや!」と両手を打った。


「あんた、シルヴィの知り合いかい?」


「はい。友達です」


「……もしかして、ギィ? あんたが噂のギィかい!?」


噂……とはなんだろう? どんな噂だ。ギィはにこやかに返事をしながら、少し不安になっていた。


おそらくはローランもこの国の住人だろう。彼が何か、おかしなことでも言っているのか。


「まあ~、本当に男前だねえ。あ~、美形って言うんだね。うん、シルヴィの言ってたとおりだ。いい声だねえ」


……シルヴィか。ギィは愛想を振りまいて、彼女の居場所を尋ねた。


「最近見てないねえ。この先に『白いピアノ』っていうB&Bがあるから、そこで聞いてごらん。たいていはそこで食事してるからね」


ギィは礼を言い、教えてもらったB&Bを目指した。


『白いピアノ』はすぐにわかった。白い壁の三階建ての、可愛らしいホテルだ。一階はレストランになっていた。


ドアを開けると、丸い体形の中年女性が「いらっしゃいませ」と声をかけてきた。


「お食事ですか?」


「いえ。シルヴィを探しているのですが」


女性は目を丸くして、


「ギィ!? あなたギィでしょう!? イェレ! イェレ、ちょっと来て!!」


と叫んだ。

店の中の客が一斉にこっちを見る。

エミリアンはびっくりして、ギィの腕にしがみついた。


「みなさ~ん、この方が、あの、ギィですよ~!!」


彼女が高らかに言うと、あちこちのテーブルから人が立ってやって来た。とたんに店の入口は人でいっぱいになる。


客をかきわけるようにして、太い腕が伸びてきた。ギィとエミリアンを引っ張り、空いているテーブルへと連れて行く。


「案内もせずに失礼じゃないか」


「イェレ、この人がギィよ。ああ、シルヴィの言ってたとおりだわ」


またか……とギィは思う。まあ、悪いことは言われていないようだが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る