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第33話

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それは直感だった。

ギィとエミリアンは、街灯の下に立っていた。

道の両脇には家々が並んでいる。けれど、外に人の姿はなかった。


ギィは黒いマントをエミリアンの肩からかけてやり、手を取った。

二人は手をつなぎ、夜道を歩き出した。


エミリアンは心配そうにしていたリシャール、エリーズ、ロシェルのことを思い出していた。三人を振り切ってきてしまったことに、後悔の気持ちが沸き起こる。

そんな思いを察したかのように、ギィの手に力が入った。エミリアンも強く握り返す。


ギィが好きだから。ずっと一緒にいたいから。


いつも気遣ってくれた三人に、心の中でごめんなさいと言った。


やがて、店らしきところへと辿り着いた。

ちょうど、中から中年の女性が出て来た。ドアの横に置いてある看板を中に入れている。閉店なのだろう。


「すみません、マダム」


低い美声でギィが話しかけると、彼女は驚いたように目を見開いた。


「ここはミュレルという国ですか?」


ギィの美貌に見とれた彼女は、次いでエミリアンを見て、今度は口を開けた。


「まあ~、お人形のような一対だね。

そうだよ、ここはミュレル。あんた達は旅人かい?」


「ええ、まあ」


「レストランでも探してるの? うちはパン屋だから、パンしかないのよ」


店の中は空になったトレーがいくつもあり、数人の従業員が片付けをしていた。

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