第31話
「勝手に人の家に入って来るな。不法侵入罪で訴えるぞ」
けれど、ローランは悪びれた様子もなく。
「じゃあギィは? お二人の大事なエミリアンを、誘惑してるよ?」
さっきローランは、エミリアンがクリスマスまでここにいるかどうかと言った。それはリシャールもエリーズも口には出さないが、一番心配していることだった。
リシャールが大股に歩いてリビングを出て行き、すぐにエリーズも後を追った。
家の戸締まりをすませて来たロシェルは、夫妻のただならぬ様子を見かけて、心配そうについて行った。
リシャールはノックもしないで、エミリアンの部屋のドアを開けた。
ローランの言ったとおりに、ギィと抱き合うエミリアンを見て、その場で固まった。
部屋の中心にいた二人が、ゆっくりと振り返る。ギィは冷静に。エミリアンは少し驚いたように。
ぎょろりとした睨むような目を見て、エミリアンは表情を曇らせた。リシャールがギィのことを良く思っていないことを知っているからだ。
「エミリアン、こっちに来い」
大声を出しているわけではないのに、リシャールの声には有無を言わせない強さがあった。
「こっちに来るんだ。エリーズ、銃を持って来い」
エリーズは慌てたようにリシャールの腕を引っ張る。
「ちょっと、やめてよ」
リシャールの言うことに従おうとしたわけではないが、エミリアンがギィの弁明をしようとして一歩足を踏み出したとたん、ギィの胸につけている金色のバラが光った。それは旅の終わりを意味する。
気づいたエミリアンは、揺れる瞳でギィの名前を呼んだ。
「ギィ! 行かないで!」
次に会えるのはいつか。確証がないから不安でいっぱいになる。
「エミリアン、こっちへ!」
「ギィ!」
ギィはリシャールとエミリアンを交互に見て、心の中で謝りながら、右手を差し出した。
「エミリアン」
一緒に行こう。おいで。ギィの右手の意味を悟り、エミリアンは迷わずその手を取った。
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