第30話

赤くなるエミリアンを抱き寄せて、ギィは再び口づけた。


「今日の衣装は『怪盗』なんだ。君のハートを奪いに来た」


黒いシャツに黒いジャケット。おまけに、撮影で使った黒いマントもつけている。仮面まではつけてはいないが、ギィは怪盗になりきっていた。


「私のハートは、初めて会ったときからギィのものです」


今度はエミリアンのほうから、ギィの唇にそっと触れた。




★★★




リビングでは、デュレー夫妻がお茶のお代わりを楽しんでいるところだった。


「エリーズ、明日の予定は?」


リシャールに聞かれ、エリーズは「ええと…」と考えた。


「午前中に出版社に行くだけよ」


「俺はモントロン邸の庭の様子を見に行く。昼前には終わるから、外でランチをしよう。その後、クリスマスショップを見ないか?」


「ステキ♪ このリビングと、庭園と、エミリアンの部屋にも飾りたいわね」


二人が結婚して五年。毎年クリスマスグッズを買うので、電飾や飾り物は色々あるのだが、庭園は広いし、今年はエミリアンの部屋も綺麗に飾りたい。

エミリアンの喜ぶ様子を思い浮かべて、リシャールとエリーズは微笑み合った。


「お二人の大切な花の精霊は、クリスマスまでここにいるかな?」


聞いたこともない男の声に、二人はソファーから立ち上がった。


いつの間にか窓辺に、甘い顔立ちの青年が立っていた。含みのある笑顔を彼らに向ける。

ローランだ、と二人は直感した。


「なんだ、貴様。どこから入った?」


殺気を表すリシャールの腕を掴んで、エリーズは強張った表情で聞く。


「花の精霊ってなんなの?」


ローランは余裕の笑みを見せた。


「花のように綺麗な子だから」


そういうこと……と、エリーズの手から力が抜ける。けれどリシャールは、まだ警戒を解いていなかった。

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