第23話

エミリアンは考えて、順番が逆だったなと思いながら、口にした。


「キスをされて、倒れてしまいました」


「キ、キスぅ!?」


ロシェルは目を剥き、


「倒れたって、お身体は!?」


エミリアンの頭から爪先までをまじまじと見て、心配そうに眉を寄せた。


「なんともないです。驚いただけだから」


エミリアンがいつもと変わらずに美しく輝いているので、とりあえずほっとする。


「あの男~、今度会ったらただじゃおかない!」


「だ、駄目です。ロシェルだから話したのに。リシャールとエリーズには内緒にして?」


リシャールが知ったら激怒することは目に見えている。けれど、エリーズには話しておいたほうがいいだろうと思い、ロシェルは返事をせずに笑顔を作った。


「エミリアン様はギィのことが好きなんですか?」


エミリアンはロシェルの目を真っ直ぐに見つめて、花が咲くように笑った。


「好き。ギィのことを考えるだけで嬉しくなる。

ロシェルに可愛いって言われると胸が暖かくなるけど、ギィにそう言われると、胸が震えるんです。このへんがざわざわして、ちょっと恥ずかしくて……」


俯いて自分の胸に手を当てるエミリアンは、嬉しいような淋しいような表情をしていた。


ギィのことを思い出すだけで幸せ。でも、彼がここにいないことが悲しい。


「それは切ないって気持ちです。エミリアン様は、ギィに恋をしているんですね」


「恋……? これが……?」


初めて知った感情に、エミリアンは驚いた。


「ギィは……私のことを知ったら、どう思うかな。ねえ、ロシェル。ギィに私のことを話したほうがいいですか?」


今年の春からデュレー家で世話になっていることを。その前まで、エミリアンというものは存在していなかったということを。

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