第44話

しっかりと抱き止められて、ギィの首に両手を回す。


「怖かった」


「見てるほうだって怖かったよ。君が、子供の後を追いかけてたって聞いて、探したんだよ」


手の中でくしゃくしゃになった楽譜をギィに見せると、ギィは「ありがとう」と言った。


子供――ローランが楽譜を持ち出したのだということは、ギィにはわかっていた。


「ありがとう」


本当は、楽譜がなくても問題はなかった。もう暗譜しているからだ。それをエミリアンに告げるつもりはないが。


「エミリアン、ありがとう」


自分のために必死で取り返してくれたのだと思うと、エミリアンが愛しくてしょうがなかった。


「ギィ、降ろして下さい。腕が……」


「君は軽いから平気」


「ダメです。今夜……優勝するんでしょう?」


「……じゃあ、続きは今夜だ」


「続き?」


小首を傾げるエミリアン。薄紫色の瞳は、とても綺麗だった。




★★★




早めに軽い食事を取り、ギィとエミリアンは着替えた。

ギィは白いシャツに黒いタキシード。エミリアンはラベンダー色のドレス。イェレとカロリーナが貸してくれたものだ。


「ギィ」


カロリーナの部屋で着替えていたエミリアンは、自分達の部屋に入り、鏡の前に立つギィに声をかけた。

ギィは振り返ると、エミリアンの全身を眺め、微笑んだ。


「綺麗だよ」


ラベンダー色のドレスはふわっとしたもの。ウエストには花の飾りのついたベルトをしている。そして短めのボレロ。髪にはやはり紫の花をつけている。


エミリアンの性別は不明だ。ギィはいつも女の子のように扱っているが、それは今までの恋人がみんな女性だったせいだ。エミリアンの性別がどちらでも、大切にするのは一緒だが、こうして見ると女の子にしか見えなかった。


(でも、胸がない。なさすぎなんだよなあ……)


それは本人には言わないが。

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