第45話

「ギィもステキです」


撮影でタキシードは何度も着ている。どう動けばより美しく見えるか、ギィはよく知っていた。


ギィの胸についている金色のバラのブローチを見て、エミリアンが「それ……」と言う。


「これはシルヴィがくれた、別世界の扉を開ける鍵。これのおかげで、エミリアンに会えた。今、こうして幸せに過ごしているのも、これのおかげ。だから、きっと奇跡が起きるはずだ」


いつ元の世界へと戻されてしまうかわからない。そう思ってミュレルへ来てからしまっておいたのだが、今夜は力を貸してくれる予感がした。

エミリアンを喜ばせる、そのために。


黒いジャケットの上で、金のバラは輝いていた。




☆☆☆




レストランへ行くと、ローランはもう来ていた。ブルーのスーツ姿で、貴公子のようだ。

サービスなのか仕事なのか、すでにピアノを弾いている。その姿はギィと同じくらいの青年。けれど、ギィにもエミリアンにも、彼の本当の姿が見えていた。

中学生くらいの子供だ。


ギィには、ローランがシルヴィと似ているように思えた。

ローランの髪は銀。シルヴィの髪は白。でも瞳は同じグレーだ。どういう関係が?


(……シルヴィは、僕達がここにいるって知っているのかな)


ぼんやりと考えていたギィは、カロリーナの咳払いで思考を中止させた。


「皆様、今夜は『白いピアノ』にお集まり頂き、ありがとうございます。これからしばらく、オーダーをストップさせて頂きますので、ご了承下さいませ」


店内は大勢の客で賑わっていた。いつもよりテーブルも増え、通路が狭くなっている。

窓の下にはぐるりと椅子だけが置かれ、満席だった。ポスターの効果はあったようだ。


「どっちから始めるんだ?」


イェレがローランとギィを交互に見た。

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