第43話
エミリアンはすぐに拾い集めた。何枚あったのかはわからない。一枚でも足りないと、ギィが困る。
キョロキョロと回りを見回して、木の上のほうに一枚が引っかかっていることに気づいた。
ローランの姿は消えていた。
誰か人を呼ぼうかとも思ったが、この小さな広場には誰もいなかった。
拾い集めた楽譜を地面の上に置き、飛ばされないように石を乗せる。それから、エミリアンは木に登り始めた。
木登りは初めてだ。けれど、エミリアンは軽く、「木」そのものをよく知っているかのように、上手に登ることが出来た。
ようやく枝に引っかかっていた一枚を手にして、安心できた。
高台の大きな木の上は、街を見下ろすことができた。
とんがり屋根や教会の塔、森や湖も見える。
こんなに美しい国があったなんて。ミュレルがこんなに広いなんて。エミリアンは、まだこの下の街や森や湖は知らない。
レネックも、広いだろう。知らない場所はたくさんある。
ギィの住んでいた世界は、まるで想像ができない。
『世界』はいくつもあり、そこには色々な人がいる。
ギィと出会えたことは奇跡なのだと、改めて感じた。
「エミリアン!」
名前を呼ばれて下を見れば、ギィが笑っていた。
「木登りが出来るなんて、知らなかったよ。危ないから、降りておいで」
降りようとして、エミリアンは急に怖くなった。降りかたがわからない。
幹にしがみつくようにしているエミリアンを見上げ、ギィは両手を広げた。
「飛び降りるんだ」
「出来ません! 怖い!」
「大丈夫。ちゃんと受け止めるから」
おいで。ギィにそう言われるのが好きだ。素直に、その腕の中に飛び込みたくなる。
そしてエミリアンは、実行した。
ふわりと、魔法でもかかっているかのように。エミリアンの身体は舞い降りるように、ギィの腕の中へと着地した。
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