第39話

二人が来てから、『白いピアノ』の売り上げは上がっていた。

シルヴィが街のみんなに触れ回っていたギィが、レストランで演奏をしている。そして、その店では花のように綺麗な子が接客をしているのだ。

レストランは一日中、繁盛していた。




☆☆☆




ギィとエミリアンがミュレルへ来て、四日目の夜。

ギィは子供のころに習っていた、ピアノの曲を弾いていた。

エミリアンは出来立ての料理を運んだり、水差しを持ってテーブルの間を歩いていた。


一人の青年がドアを開けて入って来た。


「カロリーナ、シルヴィは戻ってる?」


シルヴィの名前に、反射的に振り向いたギィは直感した。


――ローランか?


二十代真ん中くらいのひょろりとした青年は、頭を振って銀色の前髪を払いのけ、シルヴィと同じグレーの目を鋭くした。


「ギィ……」


出て来たカロリーナに、ムスッとして言う。


「なんであいつが弾いてんの? ここの専属は僕だろ!?」


「だってあんた、気紛れなんだもの」


シルヴィはまだ戻ってないわよ。そんな声を聞きながら、ローランはピアノに近づいた。


「代役ご苦労様。代わるよ」


最後まで弾き終えてから、ギィは椅子を立った。


「カロリーナ、僕はどうすれば?」


彼女は困ったように笑いながら、ギィを空いているテーブルに着かせた。


「ごめんなさいね。好きにさせてやって」


「いいですよ」


「何か持って来るわ」


「では果実酒を」


ギィは背もたれに背中を預け、足を組んでローランを見る。お手並み拝見といこう。


ローランはピアノコンクールで弾くような、技術力の高い曲を弾いた。指が絡まるんじゃないかと思うような、速い曲だ。


砂糖菓子のように甘い顔立ちのローランがピアノを弾いている姿は、絵になった。女性客からは溜め息がもれ、男性客も感心の眼差しを向ける。


ギィに果実酒を運んで来たエミリアンが、小声で言う。


「上手ですね」


「ああ」


ギィは素直に認めた。

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