第40話

だが、曲が終わり、ローランへの拍手が鳴り止むと、挑戦的な態度で言った。


「その年でそこまで弾けるのは見事だ。僕も君くらいの年には、それくらい弾けていたけどね」


店の客が不思議そうな顔をした。

ギィはニ十七歳。ローランも二十五歳前後といった感じだ。それなのに、今のギィのセリフの意味はなんなのだろう? たった二、三年の差のことを言っているようには聞こえなかった。


『ギィには不思議な能力がある』


誇らしげにシルヴィが言っていたことを思い出し、ローランは口の端を上げた。


「君……見えるんだね。面白いじゃないか。勝負だ!」


ローランが叫ぶと、酔っ払った男性客が「いいぞー!」と加勢した。

店内は拍手や口笛などで騒がしくなる。

エミリアンはおろおろしたが、ギィは余裕の笑みだ。


「いいよ。ピアノで?」


「そうだ。どっちがすごい曲を弾けるかどうかだ」


「すごい曲、ね……。場所と時間は?」


あくまで余裕のギィと挑発的なローランの間に、カロリーナが割って入った。


「勝負は三日後。夜八時にここで! 審査員はお客さんみんなよ! どうかしら!?」


いつの間にか顔を出していたイェレも、負けずに言う。


「勝者にはエミリアンからのキスを!」


「わっ!!」と盛り上がる店内。自分までが参加することになってしまったと、エミリアンは大慌てだ。けれど、ギィが大丈夫だと手を握る。


僕は勝つよ。


ギィの紅茶色の瞳がそう言っている。エミリアンは頷き、ローランのほうを見た。彼は不敵に微笑み。


「三日で何が出来るか楽しみだね」


ギィも応える。


「三日もあれば十分さ」


ローランは乱暴にドアを開け、出て行った。




☆☆☆




ギィはエミリアンのための歌を作るつもりだった。たった一人のための歌。けれど、そこはプロのミュージシャン。次のアルバムに入れるつもりだ。

いつ帰るのか、ということは……今は考えない。


タイトルは『エミリアン』

恋人の名前。でも、誰にもわからない。

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