3

第9話

3



ギィは庭園に立っていた。

ピンクやオレンジの花が咲き、緑が生い茂っている。木々の間から、三段ほどの階段が見えた。


階段を登ったところに、小さな天使の彫像があった。

その向こうに、白いバラのアーチ。


アーチをくぐると、白と緑の空間が広がっていた。

ホワイト・ガーデンだ。様々な種類の花は、どれも白い。

道が二つに別れていて、その真ん中にはさっきと同じような彫像があった。


左の道は行き止まり。

右の道はさらに深い空間となっていた。

白いテーブルがあり、お茶とお菓子の用意がされている。そして、白い椅子には人が座っていた。


(……人形?)


長い金髪が風に揺れている。ゆったりとした服を着たその人は、目を閉じたまま、動かない。人形のようだと思ったのは、あまりにも完璧な美がそこにあったから。


美しい白い庭園の、夢のように美しい人。


(これは夢なのか……?)


いや。『扉』を開けて、別世界へ来たのだ。


ギィが近づいて行くと、気配を感じたのか、その人は目を開けた。


(ああ、思ったとおりの)


綺麗な薄紫の瞳は、宝石のようだった。


夜明けの空のような瞳はギィを真っ直ぐに見つめ、か細い声が発せられた。


「どちら様ですか?」


男性にしては高く、女性にしては低い声。声からも服装からも、性別の判断はできなかった。

年は二十歳前後か。


「旅の吟遊詩人で、ギィと申します」


片手を胸に当て、もう片方の手を大きく回しながら、片足を下げる。ミュージカルで見るような挨拶をし、ギィは微笑んだ。


「あなたの名前をお聞かせ下さい。美しい人」


不審者だと通報されてもおかしくないのだが、ギィは撮影のための衣装を着たままだったし、この夢のような庭園にはよく似合っていた。


「エミリアンです」


庭園の主はそう名のり、ギィの前へとやって来て、嬉しそうに笑った。


「吟遊詩人に会ったのは初めてです。あ、私にとっては、リシャールとエリーズとロシェル以外に、あなたが四人目なんですけど」


どういう意味だろう? 名前が色々出てきたようだが……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る