第10話

エミリアンが喜んでいる様子に、ギィも嬉しくなった。ミュージシャン=吟遊詩人で、間違いはないだろう。職業は吟遊詩人て、ステキだなと思う。


「ここは、えーと……。ミュレルという国?」


エミリアンは首を傾げて、


「いいえ、レネックです」


と答えた。


ミュレルと同じように、このレネックも、ギィの住む世界とは別次元に存在しているのだろう。


シルヴィが魔法使いなら、エミリアンは天使か妖精か。


(ああ、そうか。だからだ)


エミリアンの性別がはっきりしないのは、天使か妖精だからなのだ。


(まあ、性別なんて、どっちでもいいけどね)


「ギィは、どこから来たんですか?」


名前を呼ばれたことが妙に嬉しくて、ギィはエミリアンを喜ばせることを考えた。


「ここからは遥か遠いところから。君に呼ばれて、僕は時を越えてやって来たんだよ」


「私が……呼んだ……?」


「そう。君の心の声が、僕をここへと旅させた。僕は君に会いに、大いなる力に導かれて、レネックへ来たんだ」


芝居のように流暢な、キザなセリフがあふれ出る。けれど、すべて真実だった。


「僕の、運命の人」


ひざまずいてエミリアンの手を取り、甲に口づける。白い手がぴくりと震えたが、ギィは放さなかった。


下から見上げると、潤んだ紫色の宝石が見返してきた。


これは夢。いつかは覚める夢。どうにか現実にできないだろうか。


(このまま、さらってしまいたい)


世界で一番美しいもの――それはエミリアンだと確信した。

ということは、エミリアンはシルヴィがくれたプレゼントなのだろうか。だとしたら、連れて帰っても――。


「エミリアン様!」


甲高い女の子の悲鳴に、ギィの夢想は中断させられた。


黒いワンピースに白いエプロンというメイドの格好をした女の子は、ものすごい形相でギィを睨みつけて、エミリアンの腕にはりついた。そのまま一、二歩……三歩四歩五歩と後ずさる。


「あなた誰ですか!? エミリアン様に何をしてたんですか!?」

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