第7話

ふと、シルヴィを思い出した。大きなつばのついた、魔女のあかしであるような帽子をかぶった、子供の魔法使い。

今隣にいたら、面白いのに。


順調に撮影はすみ、インタビューも終わった。悩み相談のアドバイスは、先月まとめてやってしまっていた。


ギィは楽屋で着替える前に、鏡で自分を観察した。

肩につくくらいの茶色の髪は、今は緩くパーマをかけている。今日の衣装に合っていたな、と思う。


鏡に、自分以外の小さな姿が映っていることに気づいた。


「ナルシストね、ギィ」


二ヶ月ぶりのシルヴィだった。


「あ~ん! 宮廷楽師みたいよ!

その衣装、すごくステキ! ギィはそういう服がとても似合うわ」


「ありがとう。久しぶりだね。お菓子があるけど、食べる?」


「食べる!」


ギィは差し入れでもらったチーズケーキを出し、自動販売機で買った缶紅茶を渡した。


シルヴィは椅子に座り、満面の笑みで食べ始めた。


自分はあまり食べないが、甘いものを食べている女の子を見るのは好きだ。


(なんでこんなに幸せそうなんだろうなあ。……おいしいからか)


「おいしい! 私、ケーキは生クリームって思ってたけど、最近チーズケーキに目覚めたの」


もう一ついい? と、シルヴィは二個目に手を伸ばす。


「全部食べていいよ」


「失礼ね、そんなに食いしん坊じゃないわ。

私、今日は催促に来たのよ。ギィったら、全然扉を開けてくれないんだもん。もう夏が終わっちゃうわよ!?」


「いや……なかなか忙しくてね……」


奇跡なんか起きないし。二ヶ月も前にほんの少し会っただけの女の子だって、もしかしたら夢だったのではないかと思えるときもある。


はっきり言って、執着は薄れていた。……なんて言えないけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る