第47話

切ないほどの思いは、エミリアンに雪を見せた。

ギィの回りに、細かいものが降っているのだ。それは光に当たってキラキラと輝き、ひらひらと、ゆらゆらと、後から後から降ってくる。


「……雪だ」


誰かの呟きに、次々と「雪だ!」の声が上がる。


「外も降ってるぞ!」


クリスマス前に、ミュレルに雪が降ることはない。この国の住人なら、誰もが知っていることだ。もちろん、ローランも。


ギィのピアノが静かに終わり、窓の外を見ていた人々がギィを見つめた。


拍手は起きなかった。それでもローランは安心出来なかった。この静寂の後に起きるのは、割れんばかりの拍手だと知っている。

そして、それは当たっていた。


ローランのときよりも、大きな拍手が起こった。誰もが夢中で手を叩き、拍手が収まる気配がない。

アンコールに応えて、ギィは冬の歌を歌い出した。


「魔法を使うなんて、卑怯だ!」


叫び声を上げたローランだが、イェレに鋭い視線を向けられてしまった。


「ギィは魔法なんて使えない。あれは彼の起こした奇跡だ」


「奇跡なんて、めったに起きるもんじゃないよ」


ローランは手を掴まれ、椅子に座らされた。抗議の声を上げようとして隣を見て、目を丸くする。


「奇跡を起こせるのがギィなのよ」


「シルヴィ……」


「あなたは負けたの。だいたい、魔法を使うのが卑怯なら、あなたのその姿は何?」


ローランはシルヴィと同じ十三歳。母親同士が姉妹なので、二人もよく似ていた。


「シルヴィが大人の男が好みだって言うから……」


「ギィに対抗してたの? ギィに勝てる人なんていないわよ。ギィは存在そのものが奇跡なの」


「シルヴィがどんなにあいつを好きでも、あいつはエミリアンしか眼中にないよ!」


いちいち言われなくたって、わかっている。シルヴィはローランをちらりと見て、そっけなく言った。


「私、偽者の姿って嫌い」


とたんに、ローランは子供の姿に戻った。

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